新撰 淡海木間攫

其の二十一 優美な紋様をもつ流雲紋瓦(りゅううんもんがわら)

流雲紋瓦

 大津宮に深く関わりをもつ寺院としてよく知られている南滋賀町廃寺(大津市南志賀)から、サソリ紋瓦(方形軒先瓦)とともに、もう一種類、特異な紋様(優美といった方がよいかもしれませんが…)の瓦が見つかっています。「流雲紋(飛雲紋ともいいます)軒丸瓦」という名前で呼ばれているこの瓦は、いわゆる屋根の軒先を飾る丸い瓦の周縁部に流れる雲のような紋様が八個、時計回り(反時計回りの例もあります)にあしらわれていることから、この名前が付けられました。軒丸瓦とセットになる軒平瓦にも同じ紋様が表現されており、建物の軒先に葺かれた様子は優美な印象を与えるのではないでしょうか。

 この流雲紋の瓦は、近江国府跡(大津市三大寺・大江ほか)や、周辺部にある国府関連遺跡(堂ノ上遺跡、惣山遺跡、瀬田廃寺など)から数多く発見されています。流雲紋の形や方向、中央に配された蓮華紋の形などから数種に分かれますが、基本的には周縁部に流雲紋を表現する点で変りありません。

 しかし、この瓦は特異な分布を示しており、近江国府や周辺の国府関連遺跡、南滋賀町廃寺のほか、県内では、日置前廃寺(高島郡今津町)と東浅井郡湖北町今西から見つかっているだけです。県外でも、平城京跡・長岡京跡・平安京跡、下野国分寺跡などあまり多くありません。しかも、そのいずれもが軒平瓦のみで、軒丸瓦に流雲紋をもつ例は大津市域以外では、先の湖北町今西出土の一例が報告されているだけです。

 紋様もさることながら、その分布にも特異な点をもつこの瓦は、奈良時代から平安時代にかけての近江の歴史を知る貴重な資料であることから、早急に、その特異性を解明していく必要があります。

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