新撰 淡海木間攫

新撰淡海木間攫 其の八十七 ほたる河川

 守山市ほたるの森資料館 館長 古川道夫

ほたる河川

 今回紹介する守山市ほたるの森資料館の大切な品は、集めたたくさんのホタルの資料ではなく、ゲンジボタル飼育の道具でもなく、ましてや標本でもありません。一番重要で大切なのは、当館の横を流れている人工の川であるほたる河川です。この川は資料館の建設とともに造営され、完成してから32年がたちました。この間、かつて守山からいなくなったゲンジボタルをこの川に定着さそうとたゆまない努力がつづけられてきました。私の知る限り、全国で人工の河川にゲンジボタルが定着した事例は1件だけです。たとえ1件でも事例があるならここでもできると私は確信しています。

 この川の水源は井戸水で、水中ポンプによりくみ上げています。川は当館のある守山市民運動公園の中をぐるりと約600m流れています。守山市にはゲンジボタルを保護する条例である守山市ほたる条例があり、市内全域を保護区域としていますが、ここはそのなかでも特別保護区域に指定された唯一の場所であります。

 川は上流側からAゾーン、Bゾーン、そしてCゾーンの三つの区間に分けられ、それぞれ異なった役割をもっています。また川の周辺には旧野洲川から移植された樹木等が植えられ、「ほたるの森」と称しています。鎮守の森以外に大きな森のない守山市において大切な場所であり、同時にここだけの特異な景観を呈しています。全国的にもホタル類の研究のための人工河川としてはこれ以上大規模なものはないと思います。

 近年は老朽化で堤防に穴があいて水漏れしたり、護岸がやせ細ってしまったり、外来生物の侵入を受けたりと、さまざまな事態が発生して、この川にゲンジボタルが自然発生しているか調べるのは大変です。しかし謎が多く、条件が厳しい分にやりがいがあります。このほたる河川にゲンジボタルが自然発生する日はかなり先の未来でしょうが、長い取り組みの果てにゲンジボタルがすみ着いてくれるように、生息環境の調査研究は続いていきます。

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