新撰 淡海木間攫

新撰淡海木間攫 其の七十六 アケボノゾウ化石

 多賀町立博物館 糸本夏実
アケボノゾウ化石

 今回紹介する資料は、当館のシンボル的存在のアケボノゾウ化石です。この化石は1993(平成5)年に多賀町四手にある、びわ湖東部中核工業団地の造成にともなう工事で見つかりました。木々に覆われていた丘陵地が開発されたこと、第一発見者である工事関係者が化石を見逃さなかったことなど、いくつもの偶然が重なって現在展示室の中で見ることができます。この化石の発見がなければ、多賀町古代ゾウ発掘プロジェクトが発足することもなければ、多賀町立博物館が建設されることもなかったのかもしれません。
 アケボノゾウはゾウの進化の歴史の中で古い種類だと考えられていたことに由来して、夜明けを意味する名前がつけられたのでしょう。その後、各地で発掘された近縁種の化石と比較した研究から、アケボノゾウは大陸から渡ってきたゾウが日本で進化した種だということがわかりました。「あけぼの」のゾウではなかったようですが、名前にはそのような歴史が隠されています。
 全国各地で見つかっているアケボノゾウ化石と比べて、多賀町のものは全身の骨がよくそろっている貴重な標本です。工事中に見つかり、大急ぎで発掘したため、その時には詳しい調査ができませんでした。詳細に調査をするべく、アケボノゾウ化石の発掘から20周年を契機に多賀町古代ゾウ発掘プロジェクトが発足しました。その発掘調査では、アケボノゾウと同じ時代を生きた生物たちの化石が多数見つかり、当時の沼や周辺の森の様子が明らかになってきました。
 化石は人類が見たことのない遠い昔を探る手掛かりとなります。過去を解く鍵はまだまだ私たちの足元に眠っており、まだ日の目を見ない地中のアケボノゾウたちが掘り起こされるのを待っているのかもしれません。多賀町古代ゾウ発掘プロジェクトの合言葉でもある「2頭目のアケボノゾウ全身化石」はまだ見つかっていないものの、プロジェクトのメンバーたちが諦めずに発掘し続ける原動力となっています。

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