新撰 淡海木間攫

新撰淡海木間攫 其の七十五 縄文時代のスギ埋没木

滋賀県立琵琶湖博物館 林 竜馬

 2018年11月に琵琶湖博物館に新しく造られた空中遊歩道「樹冠トレイル」は、屋外展示の「縄文・弥生の森」の中に建っています。この森は、人が自然に大きく手を入れる前の原生的な植生を再現しています。神社やお寺の周囲に残された社寺林と呼ばれる植生や、琵琶湖の周りから見つかるさまざまな植物の化石を参考にして、縄文時代や弥生時代の森を復元しています。

 今回紹介する資料は、「縄文・弥生の森」の復元に一役かった大きな木の化石です。この大きな根株は、1992年に大津市木戸にある木戸小学校の工事の際に地中から大量に掘り出された埋没木のうちの一つです。今から約3000年前に生きていた針葉樹、スギの埋没木で、その幹直径は1m以上、根ばりは3m以上あります。琵琶湖の周りでは、穴太遺跡や余呉湖周辺の低地などでも、このような巨木の埋没木が見つかっています。地層の中に眠る巨木が、私たちに太古の森の記憶を語りかけてくれるのです。

 縄文時代の人々は、このような巨木のスギの森を見つめながら、琵琶湖の周りで暮らしていました。当時から、スギを木材として利用していたことも、考古学の研究成果から明らかになっています。滋賀県における縄文時代の遺跡からは、丸木舟と呼ばれるボートが30艘近く発見されています。丸木舟は、大きな丸太をくりぬいて作られたもので、古くから人々が湖や川に漕ぎ出すのに欠かせない道具でした。

 滋賀県で出土した丸木舟の材料となる樹木は、その約半数をスギが占めていたことが樹種同定の結果から示されています。縄文時代の人々は、この埋没木資料のようなスギを伐採して、丸木舟をはじめとしたさまざまな道具を作っていたのです。

 2020年にリニューアルオープンする琵琶湖博物館のB展示室では、琵琶湖と森で暮らした縄文時代の人々の生活について、実物資料と等身大ジオラマで紹介する展示コーナーができます。

 その中で、遺跡から発掘された丸木舟の実物標本とともに、このスギの埋没木も展示する予定です。また、屋外展示の一角には、今回の資料と同じ場所で見つかった、より大きなスギの根株も展示していますので、一度探してみてください。

新撰 淡海木間攫 | 一覧

ページの上部へ