新撰 淡海木間攫

其の九 虫生野(むしょの)火山灰

火山灰

 いきなり私事で恐縮ですが、先日祖母が亡くなりました。その通夜や葬式の席で立てる線香立てのなかのものを私は砂か灰だと思っていましたが、よく見るとそれは火山灰でした。これって昔から火山灰を使っていたのでしょうかね?

 私は「火山灰」というものを研究してきました。火山灰というと九州の方はよくご存じの物だと思います。滋賀県の方はあまりご存じじゃないかもしれませんが、現在でも活動している火山の近くに住んでいる方にとって、これって本当にやっかいな物なんですよね。それだけじゃなくて、火山灰は、大規模な噴火があると上空1万メートルあたりにまで吹き上げられるから、飛行機の航路近くで大規模な噴火が起こると、飛行機のエンジンに入ったりして大変なんです。このために活動しそうな火山はいつも噴火しないか? 大丈夫か? と見張られています。

 こうやって書いていくと、まるで私は現在噴火している火山を研究しているようで、何でそんな奴が琵琶湖博物館におるんじゃ?と思われるかもしれませんが、私がやっているのは地層中にある火山灰です。そう、古琵琶湖層にある火山灰です。400万年ほど前から現在までに続く地層の中にも多くの火山灰が入っています。地層中の火山灰を見ながら、まだ人が住んでいなかった頃の日本でもずっと火山が噴火していたのだなぁ、なんて思いを巡らせたりはしませんが、こんなにたくさんの火山灰はいったいどこからきたのかなぁ?とよく考えます。これらはほとんどわかっていませんが、その内のいくつかは九州だとか岐阜県の北部から来たと言われている物もあります。タイトルにある虫生野火山灰はまだどこから来たかよくわかっていませんが、これからの研究しだいです。

 この虫生野火山灰は昔、磨きズナ(現在のクレンザーのようなもの)として地域の人に利用されていたと聞きます。実際、虫生野火山灰だけでなく、火山灰が磨きズナとして利用されていた例はいくつか見つかっています。文頭のほうで述べた線香立てのものといい、磨きズナといい、火山が近くにない地域であっても、日本人にとって火山灰は身近な存在だったようですね。

A展示室学芸員 里口 保文

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