新撰淡海木間攫 其の六十四 五百井神社 木造男神坐像
栗東歴史民俗博物館学芸員 中川 敦之
冠をかぶり袍(上衣)を着ける貴族の姿をし、瞋怒相をあらわすこの神像は、栗東市下戸山の五百井神社の主神像です。10世紀後半から11世紀初めの作品と考えられています。
木俣神を祭神とする五百井神社は、延長5年(927)成立の延喜式神名帳に「蘆井神社」と記される式内社として知られていますが、平成25年9月、台風18号がもたらした豪雨によって発生した山崩れに本殿や拝殿が呑み込まれ、一帯が土砂と倒木に覆われるという壊滅的な被害を受けました。被災後、神社の関係者や地元の人たちが中心となって、土砂に埋もれた神像を探し出す作業が行われ、2週間ほどのちに発見されました。なお、同時に14世紀末から15世紀初めの木造獅子・狛犬も発見されています。
発見された神像と獅子・狛犬は、神社の関係者や地元の人たちの要望により、平成26年1月に栗東歴史民俗博物館に寄託されました。その後、平成26年9月から12月にかけて、MIHO MUSEUM(甲賀市信楽町)で開催された「獅子と狛犬」展にそろって出品され、修復作業も行われています。
ところで、この神像の袍には緑青や朱の彩色が残されています。社伝によれば、五百井神社は仁寿元年(851)に正六位上、永治元年(1141)に従五位下の神位をそれぞれ授けられており、六位の朝服として定められた深緑色や五位の朝服として定められた浅緋色と、袍に残された彩色の一致がみられる点が注目されます。
この神像は、平成27年12月に滋賀県指定有形文化財の指定を受けました。五百井神社の地元・下戸山では、毎年5月5日の五百井神社の例大祭の継承や社殿の再建に向けた取り組みが続けられていて、この神像の滋賀県指定有形文化財としての指定は、地元での取り組みに弾みをつける話題と言えるでしょう。
※本像は、10月8日(土)から11月23日(水・祝)まで滋賀県立近代美術館で開催される「つながる美・引き継ぐ心(仮称)」展に出品されます。