新撰淡海木間攫 其の八十八 ギフチョウ
滋賀県立琵琶湖博物館 総括学芸員 八尋克郎
琵琶湖博物館では、11月20日(日)まで第30回企画展示「チョウ展─近江から広がるチョウの世界─」を開催しています。この中で展示されているチョウの一つがギフチョウです。ギフチョウはアゲハチョウ科に属するチョウです。翅は黄色と黒色の縞模様で、後翅に赤紋を持っているのが特徴です。里山環境の林から山地まで生息しています。滋賀県では、4月上旬に見られます。成虫はスミレ類やカタクリなどの花に訪れ、幼虫の食草はカンアオイ類です。
本種は全国的にも減少しているチョウの一つで、環境省のレッドリストでは、絶滅危惧Ⅱ類(VU)、滋賀県レッドデータブック2020年版では絶滅危惧種に選定されています。滋賀県チョウ類分布研究会の調査では、ギフチョウは、1980年代までは滋賀県内各地に多くの産地が見られました。ところが、1998年には大津市の南部で減少します。減少理由は、本種の幼虫の食草であるカンアオイ類の生育できる自然林や若い人工林が開発によって失われたことであると言われています。
また、滋賀県西北部と東部では比較的広い範囲に分布していましたが、2005年以降に急速に減少し、2006年には多くの産地で姿を消します。減少理由は、増加したニホンジカによる吸蜜植物や幼虫の食草の食害であると考えられています。
2017年、彦根市在住の布藤美之さんから琵琶湖博物館にチョウのコレクション約2万5000点が寄贈されました。このコレクションには、今回紹介したギフチョウのほか、滋賀県レッドデータブック2020年版で絶滅危惧種に選定されているクロヒカゲモドキ、絶滅危機増大種のウラジロミドリシジミ、希少種のキバネセセリ、スジグロチャバネセセリなど現在では産地の少なくなった1970年代の滋賀県産の古い標本が含まれています。これらは、滋賀県内のチョウの分布の移り変わりや自然環境の変化がわかる重要な標本であり、学術的にも非常に価値が高い標本です。