新撰 淡海木間攫

其の五十四 打下古墳の被葬者

高島歴史民俗資料館学芸員 白井忠雄

箱形石棺の検出状況・被葬者復顔模型

箱形石棺の検出状況(撮影:寿福滋氏)と、被葬者復顔模型(右上)


 平成13年(2001)秋、琵琶湖西岸中央に位置する白鬚明神崎の北山麓(高島市打下)で、上水道排水施設工事が行なわれていました。11月7日早朝、工事現場から石棺が現れ、棺内から人の頭蓋骨が発見されました。ただちに、発見地点は発掘調査に切り替えられ、約1ヶ月にわたる調査が実施されました。調査の結果、この古墳の年代は古墳時代中期。主体部は箱形石棺で、棺内および天井石の内側は赤色顔料が塗られてありました。副葬品としては、鉄刀1本・鉄剣1本それに伴う鹿角装具が納められていました。また棺外の西側には、鉄鏃が14本程度1束にして置かれてありました。
 出土古人骨の調査については、骨考古学の権威である京都大学の片山一道先生に依頼しました。被葬者は小柄な体形で、25~50歳の男性であろうと鑑定され、頭蓋骨から写真にある復顔がされました。顔の特徴は、のっぺりした顔立ちで現代の関西圏に住む中年男性のルーツの一つとして考えられます。出土人骨の名称は出土地名を取り「打下人」と呼んでいます。
 古代遺跡からこのような古人骨が発見されることは、非常に稀なことであり貴重です。と、思っていたら、平成22年初夏、大津市神宮町・宇佐山古墳群第13号墳の箱式石棺(古墳時代中期前半)から、赤色顔料が塗布された頭蓋骨が発見され、大変驚きました。滋賀県内における原始・古代の出土人骨の資料は、縄文時代の磯山城遺跡【成人男性2体。米原市】・粟津湖底遺跡【人骨出土。大津市】・滋賀里遺跡【土壙墓で48体・甕棺墓で17体内新生児1体・幼児2体。大津市】・石山貝塚【5体内成人男性2体・女性2体・小児1体。大津市】、古墳時代の塚原古墳群【2号墳で7体内女性1体・3号墳で5体。米原市】などが検出されています。
 これらの古人骨を復顔する機会が巡ってくれば、我々現代人は、原始・古代人をもっと身近に感じることができるでしょう。ぜひ、高島歴史民俗資料館を訪れていただいて、「打下人」と交信してみてください。

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