新撰 淡海木間攫

其の三十 琵琶湖から失われた水草

ガシャモク

 日本最大の湖である琵琶湖では水草についても古くから調査研究が行われており、内湖を含めて43種類の水草がこれまでに記録されている。しかし近年の調査で発見できる水草は20種類程度しかなく、琵琶湖から絶滅したと考えられる水草は決して少なくない。その代表的なものとして、ヒルムシロ属のガシャモクやアイノコヒルムシロが挙げられる。

 ガシャモクは、現在でも琵琶湖に多く生育する同じヒルムシロ属のササバモによく似ているが、ガシャモクには葉の付け根の葉柄がほとんどないという明瞭な違いがある。しかしなんと言っても、薄い葉と白く浮き出た葉脈から透明感を持つ美しい水草で、一目見ただけでササバモとの違いに気づく。

 滋賀女子師範学校の教諭であった橋本忠太郎氏は、大正末から昭和30年にかけて滋賀県の植物の調査をされ、多くの植物標本を収集された。その植物標本は「滋賀県植物誌」(北村四郎編、1968)の重要な基礎資料となった。標本と採集地点が明記された地形図とが琵琶湖博物館に保管されており、ガシャモクが堅田内湖そばの水路で採集されたことがその地形図に明記されている。 今日のガシャモクは、日本では千葉と福岡の生育地が知られるだけで、環境庁の絶滅危惧種(絶滅危惧・A類)に指定されている。2003年7月に、水草研究会会員の大野睦子さんらにガシャモクの自生する北九州市内の溜め池を案内していただいた。写真は、その際に入手したガシャモクを栽培したものである。この溜め池には、ガシャモクとササバモとの雑種でインバモと呼ばれる、短い葉柄を持つものも生育していた。

 千葉県の産地の情報は十分に持ち合わせていないが、1カ所は千葉県の手賀沼の流出河川である手賀川の陸地部分が掘削され池状になった場所で、埋土種子を起源とする群落である。1998年の秋に大量に生育している状態を観察し標本の採取を行ったが、その後は藻類の繁茂などにより、群落の生育状況が良くないと聞いている。その時に採取したガシャモクが草津市立水生植物公園みずの森で展示されているので、是非一度ご覧になっていただきたい。北九州市では農業用水路で生育していたアイノコヒルムシロも採取することができた。この個体についてもみずの森で預かっていただいたので、いつか見ていただける日が来るかもしれない。

 手賀川でのガシャモクの例は、土中に埋もれた種子(埋土種子)からの再生の可能性を示している。早崎内湖や津田内湖などの跡地で、内湖の復元実験や調査が最近行われているが、琵琶湖から失われた植物をよみがえらせるという観点からも注目している。

*写真:2003年7月に北九州市で採取したガシャモク

滋賀県琵琶湖研究所 専門研究員 浜端 悦治

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