IT革命雑感

滋賀大学経済学部助教授 博士(工学) 谷口 伸一

 沖縄サミットではIT革命を持続的で均衡がとれた世界経済の成長につなげるためIT憲章を採択する。我々はIT革命の最中にいるらしい。しかし、IT革命の実体や定義が今一つわからない人は多いと思う。3年ほど前から電子商取引に注目し、そのインパクトと経済への影響に関して自分なりの考えを大学の講義、放送大学での対面授業、そして地域の企業経営者を対象にしたセミナー等で述べてきたが、それを革命とは思わなかった。ラジオがマスメディアに成長するのに38年、テレビが13年かかったのに対してインターネットはわずか4年で達成した。ソニーの出井社長は「インターネットは地球に落ちた隕石だ。インターネット以前に存在した経済社会の仕組みが存亡の危機に立つ」とIT革命を比喩している。インターネットがラジオやテレビとは大きく異なる革命的メディアであることが原動力のようだ。三菱総合研究所佐野紳也氏は「IT革命とはデジタル技術やインターネットなどの情報技術により経済活動が空間的、時間的制約を超えて効率化するとともに新しいビジネスが創出され、産業構造や社会構造がグローバルかつ抜本的に変化していく現象」と説明している。コンパクトにまとめられた定義かと思われる。既存のシステムを徹底的に効率化すること以上にビジネスを含めた新しいシステムが創出されるという後者の定義にIT革命の本質を見出したい。

 新しいものを創出するには継続的な知の創造が必要である。本誌企画のホームページを社内に向けて応用すれば知の創造を支援するイントラネットを構築できる。私の研究室でも昨年から電子会議、ドキュメント管理、スケジュール管理などからなるイントラネットを構築して初歩的なナレッジマネジメントを行っている。昨年、年に1回開催される滋賀県異業種交流大会情報分科会のコーディネータを勤めた折り、ドッグイヤーの時代に年1回の意見交換では変化に追いつけないと考え、この電子会議による連続的な意見交換を提案した。しかし、「滋賀県の企業はよそ者が多いから地域的な連携は無理」と一蹴されてしまった。身内もよそ者もそれぞれの良いところを取り込みまた切磋琢磨して成長を目指すのがIT革命の特徴の一つであると確信しているが、学界に身を置く者の弱みからそれ以上の説得力をもたなかった。ところが、高知県では「産業界、行政、大学が新規事業などの意見や情報を交換するインターネット上の電子会議を5月中旬にも創設する」と伝えてきた。滋賀大学産業共同研究センターでは「21世紀型産学連携手法の構築に係るモデル事業」プロジェクトを文部省の予算を得て実行する。ここで先の提案を実現したいと考えている。

 IT革命ではΣ(ITの種類×アイデアの種類)の数だけ新しいシステムが創出されスパイラル状に成長する構造が想起される。革命という精神論よりも、大も小も、強も弱もアイデア次第で対等に活用できる道具と考えた方がよい。ホームページはその入り口となる技術である。

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