琵琶湖博物館にやってきたバイカルアザラシについて 「太ってる!」と子供が騒ぐぐらいの体格で いてもらえるように気をつけています。 滋賀県立琵琶湖博物館学芸員・獣医師 大島由子さん

──アシカやアザラシというと、水生の特殊な哺乳類というイメージですが、それ専門の勉強もなさったのですか。

大島 大学では、一般的な動物の体として学ぶので、専門的なものはないんです。

──哺乳類なら、みんないっしょだと。

大島 いっしょです。一応、ウシだと胃がたくさんあるよとか、ひと通り教わりますが、ほとんど就職してから独自に勉強して実践するという感じです。

──実際に何か病気やけがを治療したご経験はありますか。

大島 いろいろあります。アザラシですと、お互いに嚙み合って、傷が深いと中で膿んでしまったり、熱中症にもなりますし。バイカルアザラシ以外の18種類のアザラシは海水で生活しているので、負担がかかりやすい腎臓の病気になることもあります。

──アザラシというのは、身近な哺乳類だと何に近いのですか。

大島 祖先はイヌと同じといわれています。

──人なつっこいところとか。

大島 そうですね。飼育していても、根っこはイヌっぽいのかなと思います。そこに野生動物本来の本質が入ってくるといいますか。

──何か芸を教えたりもできるのですか。

大島 くるくると顔を水から出したまま回ってくれたり、左の前足をバイバイのように振ってくれたりとかします。こうした行動はそれにつながる動きを少しでもしたらほめてあげて、少しずつ少しずつ誘導しながら覚えさせたものです。合わせて人間が似たような動きを合図として行うので、まねをしているようにも見えますが、模倣行動ではありません。

──福岡の水族館からの2頭、雄のバイと雌マリともに13歳だそうですが、人間でいえば何歳ぐらいにあたるのですか。

大島 だいたい倍ぐらいと考えていただいたらいいかと思います。ですから、繁殖適齢期にあたります。夫婦かといわれると難しいのですが、そろそろいい仲になってくるぐらい。

──今後の繁殖も見越して、この2頭だったわけですね。そうすると、近々かわいい赤ちゃんが見られるかもしれない。

大島 期待はしています。

──食べているエサは、魚ですか。

大島 魚です。琵琶湖博物館に来てから、琵琶湖でとれたウグイやハスを食べてもらっています。結構好きみたいで、喜んで食べてくれるんです。前の福岡では他にいっぱい海水の動物たちがいるので、その子たちと同じエサを真水で解凍して塩分を抜き、あげるかたちでした。どうしても海水魚の方が安定的に仕入れることができるので。

──それは、琵琶湖博物館に来て2頭にとってはよかったですね。

大島 淡水魚ならではのぬめりといいますか、そういったものを喜んで食べている印象があります。ただ、本来のバイカル湖では、もっと脂の強いカジカ類や甲羅の硬いエビも食べているので、脂分を取らせるために海水魚も混ぜてあげています。

──寒いところの動物だから、脂肪量を維持する必要があるんですね。

大島 体脂肪が45%あるといわれています。バイカル湖は夏には気温30℃ぐらいになる日もあるそうですが、水温は12℃ぐらいと、日本の湖と違い、低いままなんだそうです。

──世界一深い湖(最大水深1740m)ですからね。

大島 特殊な環境で生活をしている生き物なので、体の脂肪が落ちないように、「太ってる!」と見にきた子供たちが騒ぐぐらいの体格でいてもらえるように気をつけています。夏(取材は8月上旬)はまだ細くて、冬場になると、もっと丸々としてきます。

──半年後を見てくれというわけですね。
(2016.8.5)


編集後記

ご覧のとおり、バイくんはかなり芸達者。彼の動きは、単なる入館者へのサービスではなく、体調管理のためのトレーニングの成果なのだそうです。「くるくる回ってもらうことで体の背側や後肢(後ろ足)の動きを、前肢(前足)をバイバイのように振ってもらうことで、前肢の動きや爪の状態、体のバランスなどをチェックできます」と、学芸員の大島由子さん。(キ)


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