C展示室リニューアルについて展示を見たあと、身近な風景の中に新たな発見ができることをめざしました。 滋賀県立琵琶湖博物館 総括学芸員 亀田佳代子さん

一番まとまりのないところからリニューアル?

──C展示室リニューアルの責任者ということで、経緯をざっとお話いただけますか。

亀田 リニューアルの話が持ち上がったのが3年前(2013年)で、翌年には具体的な計画を作成しました。C展示室担当の学芸員全員がそれぞれどんな展示をつくりたいかアイデアを持ち寄るようなかたちでしたが、C展示室は特に関わる学芸員が多いので、限られたスペースの中に、どういうバランスではめ込んでいくか、初期の段階ではなかなかまとまらなくて。

 正直、C展示室と水族展示という、一番まとまりのないところからリニューアルしていいのかと思ったりもしました。

──第1期リニューアルがC展示室と水族になったのは、建物の構造上の理由ですか。

亀田 はい。建物として渡り廊下で別棟になっているので、分離して改修ができますから。もう一つの大きな理由として、当館で比較的人気が高く、館の特徴といえる展示室が、水族展示とC展示室だったからです。来館者に人気のある展示を大きく変えることで弾みをつけ、次の屋外展示やディスカバリールームのリニューアルにつなげるという意味合いですね。

──それでは順番に見ていきます。最初が[1]「琵琶湖へ出かけよう」。

亀田 全体の導入部分にあたるわけですが、実は以前の展示では、琵琶湖博物館でありながら、琵琶湖のことをちゃんとまとめて紹介した展示がなかったんです。あちこちに散らばってはあったのですが。それをまとめて展示したのが、このコーナーです。

──床面の航空写真(1万分の1縮尺)は、そのままなんですね。

亀田 正面の壁面に「みんなでつくるびわこアルバム」と題して、一般から募集した琵琶湖岸の風景の写真を展示しています。今後も違ったテーマで募集して、変更していきます。きれいな写真だけではなくて、あまり楽しくはない写真をテーマにすることもあるかもしれません。それらを紹介しながら、来館者にいろいろなことを考えてもらえるコーナーになればと思います。

──そして、次のコーナーへのコースが逆回転になったんですね。時計回りに。

背の高いヨシを分け入り、展示へ

亀田 そうなんです。以前の展示では次に冨江家という移築民家で昭和30年代の暮らしを体験し、人家の周囲に広がる自然につながる流れだったのですが、今度は琵琶湖から川を上流にさかのぼっていく流れで展示しています。最上流の森まで行き、その後で冨江家の暮らしを見るという順番です。

──[2]「ヨシ原に入ってみよう」は、ヨシの繁みに分け入るようで驚かされます。

亀田 緑色の葉のものはレプリカですが、冬のヨシは、実際のヨシを加工してできています。湖岸の典型的な風景であるヨシ原にすむ生き物と、ヨシを利用する人の関わりを同時に紹介しています。生き物では日本最小のネズミであるカヤネズミ、人の利用では近江八幡周辺の火祭りで使われるヨシ松明やヨシ簀、ヨシ紙などですね。

──続いて、[3]「田んぼへ」。

亀田 湖岸に近い、平野部の田んぼを表現しています。フナを上らせるための魚道を設置した田んぼを例に、そこにすむ多数の小さな生き物やそれらとフナの稚魚との関係を紹介し、人の食糧である米を生産しているだけでなく、そうした生き物が生活できる場所を提供しているのが田んぼだということがわかる展示になっています。

20年を経て時代の変化にあわせた展示に

──続いて、[4]「川から森へ」は、亀田さんがご専門のカワウも入っています。

亀田 森林の変遷が専門の林竜馬学芸員らと展示を作ったのですが、普通に「森は美しい、すばらしい」ということを表現するのではなく、増えすぎたシカやカワウの問題もふくめて、森の生き物と人との複雑な関係を伝えようとしました。

──癒される空間ではなく、問題ぶくみの森ですね。

亀田 そうです。現在の森にはこういう問題があるというのを見ていただいたうえで、これから私たちはどうしていったらいいのかを考えてもらえる展示をめざしましたが……、展示は難しいですね。削って、削って、削って(笑)、伝えたいことが10あるうち、1のエッセンスを残した感じです。

彦根市から移築された民家「冨江家」は、以前のままの位置に

──[5]「私たちの暮らし」は、以前の展示にもあった冨江家がメインになっています。

亀田 以前、最初の航空写真のあるコーナーの壁面に展示されていた、時代をさかのぼる展示がこちらに移動されています。20年前の開館時には、祖父母や両親世代が、昔の生活に関する記憶をいろいろ語ってもらうことができたのですが、だんだん時代が変わってきました。祖父母世代でも、こうした暮らしを経験していない人が増えていく、まったく未知の暮らしという位置づけになることが予想されるので、少し解説を追加したりもしています。

──続いて、展示室中央の丸い部分にある、「生き物コレクション」。

亀田 この20年間で、少しずつ生物標本も増えてきたので、滋賀県の生き物の多様性や、琵琶湖水系にしかいない固有種などを本物の資料で紹介するコーナーとなりました。滋賀県に生息する鳥類の剥製はありったけ出しました。

 以前は包埋標本といって、魚を樹脂で固めた標本がたくさんありました。当時は最新技術だったのですが、20年もたつと気泡が出たり劣化してきて、貝などの硬いものだといいのですが、魚はだんだん見るにたえない状態になってしまいました。水族展示の方で本当に生きている魚や生物を見られるので、こちらはレプリカや液浸標本(ガラスびんに入ったアルコール漬け)です。

──「これからの琵琶湖」は、学芸員の研究成果を発表するスペースですね。

亀田 はい。学芸員5人が1年間展示を続けて、次の年には、別の5人に交代するかたちになります。学芸員だけでなく、地域の皆さんによる調査の結果も公開する場所であり、真ん中のステージのようになったところは、当館の利用者参加制度であるフィールドレポーターや「はしかけさん」グループによる調査を公開しています。

 また、タッチパネルの画面で学芸員に対する質問や展示を見ての感想を書き込んでいただけます。それに対して学芸員が返事をする、そのやりとり自体を公開する場になっています。

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