インタビュー:陸続きではないおかげで、琵琶湖岸本来の植物相に近い環境に新たな発見が生まれるはずです。


澤邊久美子(さわべ・くみこ)
三田市有馬富士自然学習センター勤務を経て、2011年より滋賀県立琵琶湖博物館に勤務。専門分野:博物館学(茅原の生物相をテーマにした参加型調査による博物館の地域連携・活用方法 など)。

──ヤンマーミュージアムの2階に設けられたビオトープに、澤邊さんはどのように関わられたのですか。

ヤンマーさんから、ビオトープの生物と活用方法についてご相談を受け、琵琶湖博物館の他の学芸員の協力も得てですが、まず入れる生き物をどうするかということと、設計段階で選定されていた植物種の確認を行いました。ヤンマーさんからは琵琶湖の湖岸をイメージして「滋賀県産の琵琶湖の在来種で設計しています」との説明がありましたので、そういった観点から樹種の確認とアドバイスをさせていただきました。そして開館後は、このビオトープを学校連携の活動、環境学習の中でどう活用していくかをご提案しています。

魚はまだ入っていません。植物以外には、飛ぶ能力がある水生昆虫がすでに入っています。これからも基本的には「やってくる生き物を待とう」という方針です。

魚のように自力では入ってこない生き物は、時期をみて少しずつ入れる計画です。今日の打ち合わせで、まずメダカを4月中には入れることが決まりました。もともと琵琶湖岸にいる種で、このビオトープの水位(平均15㎝)や水温を考え、地域のメダカを選びました。夏の高温と冬の積雪を考えると、30㎝程度の深みがほしかったのですが、屋上では難しかったため、避難場所として、観察デッキを広くして陰を増やしました。

メダカも、すでに環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧種になっている種ですし、メダカで1年ようすを見て、その後は他の希少種などの保全にも役立てていきたいというヤンマーさんの希望もあります。

──このような2階の屋上にビオトープを設けている例は、他にもありますか。

ビオトープの植栽配置図

ビオトープの植栽配置図。( )内は、混植されている植物名。

屋上緑化を目的に大阪でビルの屋上に森をつくった例はありますが、水も入れたビオトープは珍しいと思います。逆にいうと、普通のビオトープは地面と陸続きの場所につくられるので、飛べない生き物、外来種のウシガエルやアメリカザリガニが入ってきてしまうことが多いんです。けれど、屋上であれば、その確率は低くなる点が立地上のメリットだと思います。

外来種や飼えなくなった生物など種類を選ばず入れるのではなく、長浜の「地域の生物がすめる環境を目指す」というのは、ビオトープを維持するうえでの基本です。その点は、来館者、観察会などの利用のさいにも訴えていくつもりです。その条件下で、自然に生えてくる植物、見つかる生き物というのはどんな種なのか、それを観察していくのはおもしろいと思いますね。屋上にあることで入ってこない生き物がいた場合、他の生き物にはどんな変化があるのかなど、おもしろい研究もできる空間じゃないかなと期待しています。

──水の出入りはどうなっているのですか。

井水(井戸水)、つまり館近くの地下水が自動的に供給できるようになっています。夏場は水温が高くなることが予想されるので、水温を井水の供給で調整する予定です。

雨が降って水かさが増えても、排水があるわけではなく、そのまま水位が上昇していって、屋根の縁に流れ出る仕組みです。通常は周りの土に水が自然にしみていって、あとは蒸散して水位が保たれます。なので、植物が生えているきわの土をさわるとかなり湿気ってるんですよ。生き物にはそれがいいんです。水と芝生が直接つながり、土の中の水分量が徐々に変化していくというような環境は、琵琶湖の湖岸の本来の環境にも近いものです。そこで植物の種類が徐々に変わっていくようすを見ることができるはずです。

屋上だったため、重量があり深い根を張る樹木を植えられませんでした。その分、草地の面積が広くなりました。ビオトープというと「池」のイメージが強いですが、もともとの意味は、生き物がすむ環境すべてを指しますので、水にすむ生き物だけではなく、草地にすむ生き物にも関心をもってもらえたらと思います。

現時点で茶色に見えている大部分のところには、チガヤという植物が生える予定ですが、これは日本在来の植物で、草地の植物の代表のような種です。秋には紅葉しますし、穂は真っ白でとてもきれいです。季節によって変化する草地の景観を楽しんでもらうこともできるでしょう。

──草が育ったら子どもの姿が隠れてしまうぐらいにはなりますね。

刈り取りなどの面でも手入れがビオトープには必要です。ビオトープは、「つねに関わっていかなければいけないもの」、「ほったらかしでは完成しないもの」ですから。そうした管理も、これはヤンマーさん側の意向でもあるのですが、地域の方々に積極的に関わってもらえるとうれしいです。地域の人が気になるようなビオトープを作り、集まった人の中から観察会などのガイド役、リーダー役の人が生まれ、新たに訪れた人に知識を伝えていく、そんなつながりがこのビオトープを通して生まれることが、ヤンマーさんと私たちの願いです。
(2013.4.4)

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