琵琶湖博物館リニューアルについて 琵琶湖博物館と企業との新しい関係が築けました。 滋賀県立琵琶湖博物館 館長 高橋啓一さん

──高橋館長は、リニューアル計画にどういった関わりをされていたんのでしょうか。

高橋 計画は館の中に新琵琶湖博物館創造室というグループが置かれ、行政の担当者と学芸員がいっしょになって進めていきました。副館長だった時期もふくめて、私はそれを承認していく立場でした。ですから、私はあまり苦労していないのですが、当館の職員は、博物館を運営しながら、また研究をしながらのリニューアルでしたので、普段でも2倍、3倍働いているところを、さらに3倍、4倍働いてくれたと思っています。

 リニューアルに関係して私がしたことのひとつは、企業の方々へご支援のお願いをすることです。今回の展示・交流空間のリニューアルは、県の予算だけでは私たちの計画した企画ができませんでした。そこで、企業の方々に私たちの思いを説明して、寄付をお願いしてきました。現在は260社以上からご支援を受けています。この活動を通じて、寄付だけでなく、当館と企業の方々との新しい関係が築けたことはありがたかったです。それまで、市民や学校との関係は築かれていたのですが、社会を構成する一員である企業とどのように関係を築き、いっしょに活動をしていくのかはあまりわかっていませんでした。

──具体的には?

高橋 いろいろありますが、例えば伊藤園さんは「お茶で琵琶湖を美しく。」というキャンペーンをやっていて、募集で集まった写真や俳句の作品展を当館で展示しました。同様に、県内に事業所や工場がある8社で作った生物多様性びわ湖ネットワークは、トンボの調査を行った結果を当館で展示し、来館者との交流もしました。コクヨ工業滋賀さんとは、「お魚ノート」をいっしょに開発しました。そのほか、屋外展示を活用しての企業主催の観察会、企業の敷地内での生物保全活動をいっしょに行うなどさまざまな連携をするようになりました。企業主催で働いている方々が団体でレクリエーションに来られるようなこともあります。こうしたたくさんの企業から支援を受けたり、いっしょに活動するような博物館は、全国的にも稀だと思います。

──A展示室、B展示室のご担当者にお話を聞くと、ユニバーサルデザインの観点から追加された所が見受けられました。

高橋 ユニバーサルデザインは弱者のためにあるだけではなくて、結局みんなが便利なのです。ただ、展示スペースには限りがあるので、長いスロープを付ければ高いところに登れる場合でも、それができずに階段だけになってしまう場合もあります。すべてをうまくやるというのは難しいものです。

 当館では、そのあたりを人で対応しましょうということで、開館当初から展示交流員というスタッフがいます。困っている人がいたら展示交流員が、一人ひとりのご要望を聞きながら対応することが大切だと思っています。

──新型コロナウイルスの影響はいかがでしょうか。

高橋 開館時間の短縮や入場者の制限はやっています。リニューアルオープン後も、しばらくはこの状態が続くでしょう。この10月に予定していた国際シンポジュウムも延期となりました。連携している世界の研究施設や博物館の研究者を招いて、地域の方々と共に古代湖のことや人と湖の関係などを話し合いたいと思っていたので残念です。

 ただ、私はあまり悲観的ではありません。博物館の活動というのは、来館した子どもが親になった頃、さらに50年、100年と続けることで効果がでてくるものなのです。1年や2年というのは、そういう意味では非常に短いブランクにすぎないと思っています。リニューアルした博物館は、これからも地域の方々と共に、調べ、学び、そして発信していきたいと思っています。
(2020.9.10)


編集後記
取材は、グランドオープンのちょうど1か月前。高橋館長に「まだまだ作業中ですね」と言うと、「こういうものなんです。オープンした日もできていないんですよ。企画展示もそうですが、だいたいしか完成していません。始まってから、自分で『あっ、間違ってた』と気づいたり、来館者から指摘を受けて、1年ぐらいはずっと直していきます」とのこと。(キ)


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