A展示室リニューアルについて 一番伝えたいのは、琵琶湖の生い立ちだけではなく 周囲の大地や環境、生き物が長い時間をかけて ものすごく大きく変化したということなんです。 滋賀県立琵琶湖博物館 学芸員 里口保文さん

琵琶湖の下には堆積した土砂が水よりもはるかに大量にあります。

──入口から順に解説いただけますか。

里口 「琵琶湖の生い立ちを伝える」という博物館全体の中での位置付けは、新しいA展示室も変わらないのですが、以前よりは琵琶湖に関する話の割合が増えています。以前の展示では、「琵琶湖博物館に来たのに琵琶湖の話がなかなか出てこない」という意見が来館者からありました。

 最初の‌[1]「琵琶湖のものがたりのはじまり」は琵琶湖の真ん中から琵琶湖の周りを見たパノラマ写真をご覧いただけます。こうした風景の中にも、実は琵琶湖の生い立ちの情報が隠されているんです。

 次の‌‌[2]「琵琶湖と生き物のものがたり」では、まず大きな画面と床にある地図が連動して、その変化をたどっていきます。前言撤回のようになりますが、一番われわれが伝えたいのは、琵琶湖の生い立ちそのものだけではなく、琵琶湖をふくめた周囲の大地が長い時間をかけてものすごく大きく変化したということなんです。その大地の変化につれて、ゾウやワニのように現在の日本にはいない生き物がいたり、生物相も入れ替わっていきました。

 展示室の真ん中に進んでいただくと、ガラス張りの下にゾウの足跡化石の発掘現場が見えるようになっています。上を歩いても大丈夫です。この中央から、放射状に興味をお持ちのコーナーへ進んでいただけるよう、壁をほとんど取り去りました。

──里口さんご担当の‌[3]‌「うつり変わる大地と湖」へ進みましょう。

里口 琵琶湖のように一つの場所に40万年もの間存在する湖は非常に珍しいんです。普通は土砂で埋められてすぐなくなってしまいます。長く存在する理由は、一つ目に琵琶湖の西側にある断層帯がどんどん動いているため、二つ目に琵琶湖の出口がせばまっていて水が出にくくなっているためということを解説しています。こちらには、高島市教育委員会が採取した湖西の饗庭野断層を含む地層の標本を展示しています。表面に接着剤を吹き付けて、ベリッとはがしたもので、当館に移管していただきました。

 その右側の壁面には、地層の標本を額縁に入れて、美術館風に展示してあります。

──おもしろいですね。抽象画の作品のようにも見えます。

里口 正直なところ、地層の展示ってあまりおもしろくならないんですよ(笑)。でも、琵琶湖の生い立ちを語る上で地層がものすごく大事なので、なんとか興味を持っていただければと考えました。

──「琵琶湖の下にねむる山」と題された立体模型は見入ってしまいますね。

里口 琵琶湖は、水がたまっている部分だけではないことを紹介したものです。上に浮いている青い板が水で琵琶湖の平均水深(約41m)ほどの厚さになっています。縦横比は51に強調して。下の茶色が堆積した土砂で、水よりもはるかに大量です。その水と土砂を取り去ると、でこぼこした地形が出てきて、竹生島などの島は、山の一番高いところが水上に頭を出しているということを目に見える形にしています。

 おもしろいのは、琵琶湖の水深は北湖が深くて、南湖は浅いのですが、土砂のたまり方を見ると北湖は意外に浅くて、南湖がすごく深いんですね。また、西側には断層があるためにすごく分厚くなっていて、東の方はわりと浅いこともわかります。

──それに、湖が移動してきた三重県方向の山地が低いことも実感できますね。

里口 なかなかいい出来だなと満足しているんですが、つくるのは本当に大変でした。

数万年前の寒い時代は、夏でも涼しくて冬はとても寒いです。

──つづいて、‌[4]「うつり変わる生き物」のコーナーです。

里口 A展示室の目玉として紹介されるコーナーかと思います。巨大なゾウは以前の展示にもありましたが、筋肉の付き方などを考えて、半身の皮膚を復元しています。その奥は古代の生き物を実物とレプリカで紹介しています。以前は鉱物や化石など、いろんな標本を見てもらっていたのを、動物化石だけに限定しました。ワニは足跡化石とともに大きく紹介しています。古い湖の時代なので、場所は現在の三重県ですが。

──その一角が以前はなかった最新研究にあたるコーナーですね。

里口 いまでは生き物のDNAの研究から、その種がいつごろ琵琶湖で固有化したのかなどがわかりますので、その系統樹が化石とともに展示されています。現在はDNAの研究を行う学芸員がいるので、「研究デスク」の形で、研究のようす自体も紹介する展示になっています。

 実際にはDNAの研究だけで過去の状態を言うことはなかなか難しくて、発見されている化石の年代や分化する要因となる当時の地形などを加味して、年代を決めているという側面もあります。

──なるほど。つづいては‌[5]「うつり変わる気候と森」。

里口 地層中の花粉化石によって気候と森の変化を再現したコーナーと、メタセコイアなどの植物化石によって気候と森の変化を紹介したコーナーの二つがあって、それぞれ雰囲気がずいぶん違います。これは担当学芸員の個性が出ていますね。

 スギ花粉を1万倍に拡大した模型が置かれています。こうした花粉が化石として地層中に残っていて、それを調べることによって、過去の森の姿、過去の気候がわかるんですね。寒冷だった時代を体験してもらうコーナーもあります。

 気温の変化を示した折れ線グラフで、暖かい、寒い、暖かい、寒い期間が何回も繰り返されていることがわかりますが、暖かい時代というのは、それほど今と変わらないんですよ。ところが寒い時代は変化が激しくて、数万年前の寒い時代というのは夏でも涼しくて冬はとても寒いです。

──最後の‌[6]‌「琵琶湖の生い立ちと私たち」には、「琵琶湖と生き物の10大事件年表」というじっくり見たいコーナーがあります。

里口 最後のまとめとして、ここまでバラバラに紹介していた事柄を一つにまとめています。年表の終わりの方では、次のB展示室でご覧いただく人の歴史に関しても書かれていて、A展示室の時間スケールで見ると、ものすごく短いんだよということがわかるかと思います。最後に相谷熊原遺跡(東近江市)で出土した国内最古級の土偶を、レプリカで展示しています。

 それから出口右手には、岩石や鉱物の標本も含めて、地域で化石や鉱物を掘って楽しみながら調べてきた方々から当館に寄贈していただいた標本の展示や、現在もその活動をしている方が自ら展示するコーナーがあります。ここは、皆さんにとっての交流の場にもなると思っています。

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