ゴミ問題に見るモラル

 ゴミの処理能力が全国的に限界を迎えつつあります。要因はまだ使える物のゴミ化(モデルチェンジや修理ばなれ等による)や使い捨て商品の定着など、ゴミ量の急激な増加にあります。ここにきて生活スタイルの見直しやリサイクルが叫ばれるようになりましたが、ゴミ問題を悪化させるのも、改善の方向に向かわせるのも、人間のモラル次第のようです。そのモラルを目の当たりにしているのはゴミ処理施設ということで、今回は甲西町リサイクルプラザを訪れ、所長の井後良紀さんからお話をうかがっています。

甲西町リサイクルプラザ

 総工費22億円(うち甲西町の負担は17億円、残りは国と県の補助による)をかけて平成9年3月に完成。
不燃ゴミ・粗大ゴミ・缶類・ペットボトルを処理対象物とし、破砕・選別・分別・圧縮処理の中からそれぞれふさわしい作業の組み合わせにより、資源としてリサイクルにまわすことを目的としている。
 また、学習の場として研修室や再生品展示室、ガレージセール広場等を設置。県内外からの視察や研修団体の訪問が相次いでいる。
〒520‐3252 滋賀県甲賀郡甲西町岩根136番地
TEL(0748)75‐3933 FAX(0748)75‐3904


インタビュー

甲西町リサイクルプラザ 所長 井後 良紀さん

▽甲西町リサイクルプラザ(以下プラザ)は、甲西町が単独で持つ施設なんですよね。リキがあるな、という印象を受けます。

▼そうですね。施設の総工費が22億円、そのうちの17億円を町が負担していますから。ただ、町内で出るゴミを全てここで処分しているのでなく、ゴミの中でも不燃ゴミ・粗大ゴミ・缶類・ペットボトルに限ってリサイクルにあたるというのが施設の特徴です。

▽やはり甲西町のゴミ量というのは?

▼増加傾向にありますね。特に事業所からのゴミ、いわゆる産業廃棄物の増加が目立ちます。

▽そういった状況下でプラザが果たす役割というのは大きいですね。

▼ここのプラザはガレージセールをやってる、リフォーム教室があるというのでよく取材を受けますが、施設の第一の目的はゴミの中から有価資源を取り出すということで、私達がそのために今、一番力を入れているのは、分別収集の徹底だとか、ダイオキシンの発生を抑えるとかそういうことなんですけどね。

▽実は、今回の取材の切り口はゴミを捨てる側の「モラル」についてなんですが。

▼うん。そのための材料もうちには沢山ありますよ。モラルと言いましてもね、私自身も家に帰ったらただの人なんです。ゴミを何種類にも分けて、指定日にキチッと出して、というのが面倒臭くないか、といえば面倒臭いんですよ。それをキチッとやらなければならないのはなぜなのか、キチッとやることで具体的にどんな風に貢献できるのか、そこらへんを学んで、理解してもらった方が、取り組む側もやりやすいだろうということで、施設の副目的としてリサイクル製品展示室や研修室があるわけです。見た方が早いですね。あっちの部屋へ行きましょうか。

(リサイクル製品展示室兼研修室に移動)

 ▽ああ、ビン回収日に混入してはいけないその他のガラス製品(異物)というのがわかりやすく展示されていますね。(写真右)

 分別収集が守れない理由の一つは、分別の判断がつかない、というのもあると思うんです。そこらへんを例えばですけど、うちのお母ちゃんにも分かるように言うてくれな…、というのがこちら側としてはあるんですが。

▼それはそうでしょうね。

▽私自身、灰皿とグラスを見てダメなの?という思いが今、頭をよぎりました。

▼これは難しいでしょうね、私達職員にも分かりませんもん。ビンを回収する時は、一つ一つ確認してからパッカー車に積み込むよう職員に言ってますが、それでも不充分なんです。どこか名古屋やったかな、一旦回収したビンを全部ベルトに載せて、シルバー人材を雇って分別作業しているという話も聞いてますしね。

 ▽で、もし異物が混じったまま再資源化されると、こんな風に穴があいた欠陥製品ができてしまうと。

▼そうなんです。これはガラス会社の協力を得て作ってもらったものなんですが。異物が混入した資源というのはまず引き取りを拒否されますね。ガラスビンだったらきっちり色別に分けて、異物がまったく混じってなくて、それで資源としての価値が上がるんです。99%ではダメで100%ではじめてOKというのがリサイクルの難しい点ですね。

 でもね、複雑なもんを作るビン業界にも責任はあると思うんです。最近、地ビールが人気ですけど、陶器製の容器に針金で留めたコルクの栓とか凝ったものがありますよね。ゴミの分別から言えば全部複雑、矛盾だらけ。それでビン業界とケンカすることもしょっちゅうですよ。

▽次がペットボトルの再生繊維からできる衣料類などですね。

 ▼衛生上の問題でペットボトルからペットボトルを作るというのはできません。こうした衣料だとか、皆さんはあまりご存知じゃないかもしれませんが洗剤の容器などに生まれ変わります。

▽ただ、ペットボトルから生まれた衣料というのは、コスト面の問題などから今のところ同一製品の大量納品が可能なユニフォーム類が主ですよね。

▼あとは流通業や消費者の皆さんがどこまで関心と理解を示してくれるかですね。

▽さっきから気になっていたんですが、前の演壇机にあるのは化粧品ですか?

 ▼これらはゴミとして捨てられていた物ですが、すべて未開封です。この化粧品はセットで3万円程度はするでしょうね。

 プラザには毎日のように視察や研修の名目で諸団体の方々が来られますから、その時、これを見てもらうと、一番実感が湧きやすいと思うんです。ゴミの指定袋一枚25円が高いと文句を言う一方で、こうしたものを惜しげもなく捨てる。何かおかしいやないか、と。あとは率直な意見として「さらを捨てな」と言ってますね。

▽やはりそうした文句がある。

▼もちろんです。「ゴミを捨てるのになぜお金を払わなあかんのや」って、日本だけですよ。ゴミ処理にお金がかからないと思っているのは。これは僕の考えなんですけど、日本で廃棄物処理法が定められた時、それぞれの責任は各市町村にふられたんですね。これがそもそもの間違いじゃないかと思う。例えばドイツではゴミの処理事業はすべて第3セクターに委ねられてるんですね。どういうことかというと、国民一人当たりの負担金が大きいわけです。でも、それが当然として受け止められている。日本もそろそろその時期に差し掛かってると思いませんか。「役所が何とかしてくれる」で済む時代じゃないでしょ。

▽2000年からはさらにプラスチック類や紙類を対象とする「容器包装リサイクル法」がスタートしますが。

▼そう、でも僕は無理と思ってます。対応の限界。このままではね。

▽捨て方というか、ゴミの基準が昔とは全然違いますよね。まだ使える物でもいらない物はゴミというか。

▼プラザの中の装飾品(置き時計・額・花瓶等)も全部ゴミの中から拾い上げた物ですから。まぁ、玄関の花瓶はインパクトを狙ってオーバーに飾ってるんですけど。

▽こうなるとまず家の中に持ち込まない、買い物の仕方から変えていかないと、と考えさせられますね。

▼そうなんです。結婚式の引き出物だとか、何かの記念品として貰った物がほとんどなんでしょうけどね。だから私は、プラザを訪れた主婦の方達に「買い物十カ条」というのを唱えてるんです。その中でも力説しているのが、「安物買いの銭失いをするな」「欲しい商品と必要な商品は違う」「贈り物をする時は考えて」、この3つです。衝動買いして後で後悔する、貰った花瓶や絵皿、置き時計が自分の好みじゃない、すぐゴミ箱いきでしょ。

▽どこも傷んでないものを捨てるというのは、ちょっと後味が悪いような気もしますが。

▼住居問題というか、収納スペースの問題もありますしね。こんなもんなんぼでもありますよ。

▽で、奥がガレージセールに出すための粗大ゴミの、粗大ゴミと呼ぶには抵抗を感じますが、保管室ですね。

 ▼そうです。今は不景気ですから、やっぱりいいものは少なくなりましたね。(写真右)

▽これでですか。ほとんど無傷に見えますね。

▼そう、無傷じゃないとダメですね。リフォーム教室もあるにはありますが、素人に修理できるものじゃないでしょ。技術が不足してますし、そこまでして使おうという人もいない。

(と話している最中にもまたタンスが一竿運び込まれる)

▽年に2回、ガレージセールを開かれるそうですね。

▼そうです。倍率は結構高いですけど、無料でお譲りしています。

▽倍率が高いというのがせめてもの救いかな、という気がしますね。

 こういう施設を訪れると、自分自身反省するところが大きいんですが。井後さんはゴミ問題は解決できる問題だと思われますか。

▼一般の人の意識は昔と比べて随分高くなってきたと思うんです。ただ、こうして規制がきつくなってくると、反動のように不法投棄等の違反が増えてくるんです。不法投棄ってね、おかしなものなんですよ。連絡を受けて、その場へ行って、ゴミを回収してキレイにして帰ってくるでしょ。2、3日後には元通り、またゴミが捨てられてるんですね。合わせて考えると、モラルは良くなってるのか悪くなっているのか、私自身は何とも言えませんね。

▽ダイオキシンの問題もありますしね。

▼そう。それが一番の課題ですね。ゴミの回収中に指定袋以外の黒のビニール袋(もちろん違反行為)で出されたゴミを持つとしますね。中身は多分、何もかも一緒くたです。チンチンガラガラ音が鳴ると、「あぁ、ダイオキシンのもとやな」と腹が立ちますね。どう処分しろというのか、町民の皆さんに迷惑をかけていることになぜ気がつかないのか、てね。ゼロにはできないけれども、なるべく少なくしていこう、というのが我々の姿勢ですね。

▽大袈裟かもしれませんが、ゴミ問題を突き詰めていくと、人間不信になりそうですね。でも、決して後ろ向きではないんですよね。

▼私自身、行ったことはないんですけど環境先進国ドイツに追いつけ追い越せをモットーにしています。ドイツの市場などでは、肉など新聞紙にクルッとまいて売ってるそうですから、ゴミの質がまず違うんですけどね。これはある大学の先生から聞いた話なんですけど、「ドイツのゴミは軽い、日本のゴミは重い」らしいんですね。パンと米を比較してみても、これは納得できるかなと思うんですが。

▽井後さんの立場から社会に訴えたいことというと。

▼まず、ゴミを処分するのにお金がかかるのは当たり前だという意識改革をおこなってほしい。あと、何か問題が起きると、行政ばかりをやり玉にあげるような世間の風潮は、かえってゴミ問題の解決を遅らせることになると思います。そのために、マスコミがもっと扇動してくれれば、と思いますね。やはりマスコミの影響力は大きいですから。

▽今日はありがとうございました。

(1999年3月16日)


‘99ゴミコレクション?

つぼ
壺。壺はわざわざ買う時代ではなくて、捨てる時代なのだろうか

顕微鏡、ヘルスメーター、茶器セット、カメラの三脚etc.物の寿命はまったく無視される



写真撮影中、偶然運び込まれたタンス。見たところ無傷

段ボール箱から出された形跡のない衣類乾燥機。しつこいようだが粗大ゴミとして回収された


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