Archive for 2010

2010年 11月 1日

其の四十六 琵琶湖文化館所蔵 両界曼荼羅

琵琶湖文化館所蔵 両界曼荼羅

右…修理前、左…修理後



 琵琶湖文化館が所蔵している仏画の一つに鎌倉時代に製作された両界曼荼羅があります。形あるものがいずれ形を失っていくという道理にしたがい、こうした掛軸などの文化財も徐々に傷んでいきます。この曼荼羅は絵絹に描かれていましたが、絵絹は折れ、絵の具も落ち、公開に支障をきたす状況にまで陥っていました。

 平成4年(1992)、琵琶湖文化館ではこの曼荼羅の修理を行うことにしました。大切な文化財ですので、当時県内に発足したばかりの文化財修理工房へ修理をお願いしました。国宝や重要文化財を修理する工房におられた方が独立開業されたもので、当然文化財修理についても相当の実績がある修理技術者でした。

 平成4~6年度の3か年をかけて、曼荼羅は無事に修理されました。この修理にあたり、琵琶湖文化館では一つの試みに挑戦しました。それは掛軸の表具です。

 掛軸の表具は色とその取り合わせが様々にあることはご承知の方も多いかと思いますが、実は形も色々あります。この曼荼羅では、大きな掛軸にのみ使用されるという表装のスタイルを採用しました。通常の紐で吊りさげるものではなく、表装裂で輪をつくり、そこに棒を通し、取り付けた金具で吊り下げるというものです。

 こうしたスタイルの掛軸は京都の東寺に伝わる両界曼荼羅の表装にみられるものですが、全国的にもとても珍しいもので、数えるほどしかありません。琵琶湖文化館の両界曼荼羅はただ修理するだけでなく、途絶えてしまう可能性がある表装の文化までもを同時に後世に伝えようとした事業でもありました。

 文化財修理は、今では大変専門的なものとなってしまいました。私も学芸員としての活動の中で、残念な結果となってしまった修理をいくつも見てきました。だからこそ、そうなる前に地域の博物館や教育委員会などに気軽に相談していただけたら、と思っています。

滋賀県立琵琶湖文化館学芸員  井上ひろ美

●井上ひろ美著『淡海文庫 継承される文化財─模写・模造・修理─』(サンライズ出版)が近日発行予定。

中川原 正美
四六判 350ページ 並製 ISBN978-4-88325-429-3 在庫あり
奥付の初版発行年月:2010年10月 書店発売日:書店発売日:2010年11月01日
2800円+税

2010年 10月 31日

仏心寺のほとけたち

愛荘町岩倉の仏心寺の矢取地藏と聖観音の特別展が開催されます。
 
と き 2010年10月30日(土)~12月19日(日)
     10:00~17:00  
     月・火曜日は休館。但し11月は全日開館
ところ 愛荘町立歴史文化博物館(金剛輪寺の隣り)
     電話0749-37-4500
入館料 大人300円
 
『今昔物語』に出てくる矢取りの地藏と、聖観音立像は共に作者が経円で、1222年と1224年に作られました。平成21年に聖観音立像の保存修理が行われ、昭和58年の調査で知られていた胎内仏が総高7.7㎝の金銅菩薩立像と判明しました。 
今回はこの胎内仏も展示されます。

2010年 10月 29日

対談:髙梨純次×寿福滋 滋賀の仏像を語る ─写真集『近江の祈りと美』刊行にあたって─


[特集を読む]

NPO法人日本自費出版ネットワーク 企画, サンライズ出版 編集・発行
A5判 220ページ 並製 ISBN978-4-88325-427-9 在庫あり
奥付の初版発行年月:2010年10月 書店発売日:書店発売日:2010年10月28日
2000円+税

2010年 10月 25日

『愛知の山城ベスト50を歩く』好調です

精文館書店さんの売上ランキングでなんと5位に!! ありがとうございます。
「愛知の山城の本作れるかな?」と私がふとつぶやいたら、それが2年もしないうちに実現してしまいました。これもひとえに執筆者のみなさまのおかげ、そして城郭探訪好きの読者のみなさまのおかげです。ありがとうございます。
本の企画を立てるとき、「こんな本があれば便利だろうな」と思うこと。私が一番最初に手掛けたのは『近江之中山道道中案内図』でした。これは、まだISBNコードを取得していないときに作った3冊セットの冊子で、未だにコードをつけていませんが、家の前を旅人が往来するのを見て、「こんなガイドブック作ったら便利やね」「ほな、作ろか」という軽いノリで作りました。でも実は軽くはなく、道は3回以上歩いたり、車で走ったりしたし、取材、文献を調べたりしました。
山城シリーズも同じく、旧知の城跡であっても執筆者の方々は、現地へ再調査して書いてくださっています。そうした積み重ねがあってこそ、便利な本が出来ていくのだとつくづく思います。

寿福 滋 写真, 髙梨 純次 文
AB 344ページ 上製 ISBN978-4-88325-426-2 在庫あり
奥付の初版発行年月:2010年10月 書店発売日:書店発売日:2010年10月19日
9000円+税

2010年 10月 14日

正明寺は観音正寺・梵釈寺とつながるのかどうか?

『近江の祈りと美』の仕事をしているとき、写真家の寿福さんが「正明寺の千手観音さんは観音正寺の焼けた観音さんによく似ている」と言われた。なるほど写真で見ると本当に似ておられる。時代も同じく室町時代で共に天台宗寺院だったときの作である。観音正寺の観音さんは胎内に作者が書かれていたのだが、正明寺の観音さんは果たしてどうなのか?

先日、大石真人著『近江路の古寺を歩く』(山と渓谷社)を読んでいたら、蒲生町の梵釈寺は正明寺の晦翁禅師が天和年間に開創したお寺だと書かれていた。梵釈寺の御本尊・伝観音像は実は宝冠阿弥陀像であるということは『近江の祈りと美』で高梨さんも解説されており、「ここは重文の正式名称ではなく宝冠阿弥陀像と書いておこう」といわれた、謎めいた仏さまである。もしかしたら正明寺さんにおられた宝冠阿弥陀像が梵釈寺に来られたのでは……などと、勝手な想像をしてしまう。 

とりあえずは、17日からご開帳になる正明寺の観音さんを拝観に行くべし。

 

2010年 10月 13日

日野・正明寺 33年に一度の御開帳

滋賀県日野町、ブルーメの丘のすぐそばにある黄檗宗の正明寺の御本尊・千手観音立像が33年に一度の御開帳をされます。元々は天台宗だったそうで、両脇には不動明王と毘沙門天の脇侍という 三尊形式、室町時代の作ということです。

と き 2010年10月17日(日)~11月23日(火)
ところ 正明寺  蒲生郡日野町松尾 
拝観料 500円 
 
今年お参りしなければ、次は33年後です。
日野の街並み散策や紅葉狩りを兼ねて、是非ご参拝ください。

2010年 10月 13日

仏像ってむずかしい4

今回は仏像というよりも、お寺や神社の名前について、むずかしいことのお話です。
まず大津の園城寺(おんじょうじ)さんは通称は三井寺さんと言われています。三井寺の由来はといえば、天智、天武、持統の三天皇が御産湯をつかったという「閼伽井屋」という井戸があり、これが「御井」(みい)と言われ、それが三井寺になったのです。今回は図版に表記する所有者名として正式名称をいれたのですが、もしかするとわからない人もおられるかもしれませんね。
国宝十一面観音さんのおられる高月の向源寺さんについては、このお寺の住所が「渡岸寺」なので、ついつい渡岸寺の観音さんという人が多いのですが、これはまちがいです。
その他、高月の充満寺(じゅうまんじ)は西野薬師堂、日吉神社は赤後寺(しゃくごじ)、鶏足寺(けいそくじ)は己高閣(ここうかく)というように本当にややこしいですね。

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