彦根ことばとその周辺
| 判型 | 四六判 ページ 並製 |
|---|---|
| ISBN | 978-4-88325-466-8 |
| 刊行年月日 | 2011年12月20日 |
| 書店発売日 | 2011年12月20日 |
長く郷里を離れていても、方言は脳裏に焼き付いているものである。中国語の翻訳をしている著者が郷里の方言とその背景にあるものを提示しつつ、共通語への置き換えに焦点を当てている。巻末には彦根の方言一覧を収録。
電子書籍版も発売中。詳しくは各電子書籍サイト(Amazon、honto、楽天kobo等)でご覧ください。
第1章 彦根ことば
第2章 どんつきの「どん」
第3章 「さま」と「さん」
第4章 「湖(うみ)」と「肉」と「お山」
第5章 便利な彦根ことば
第6章 あいさつことば
第7章 「モノ」にも「さん」を
第8章 「いる」「おる」「ある」「いてる」
第9章 「こそあ」と「ほ」
第10章 「わたしたち」と「うちら」と「じぶん」
第11章 Once Upon a Time in 彦根
彦根ことば一覧
おわりに
■はじめに 十八歳の春上京し、その後約四十年関東圏に住んでいますが、いまだに東京語が自分の言語になりません。言語習得期に身につけたことばが体に染みついているということでしょうが、方言から共通語への置き換えが必ずしも一対一ではないということにも起因しています。 例えば、「ほっこりする」は仕事が一段落してほっとするという感情です。言語は話し手の感情や考えを表出する手段です。仕事で疲れて一休みする時生まれてくる安堵感は、この「ほっこりする」ということばを第一言語として身につけている彦根出身者(京都、大阪なども含めて)には、他のことばでは表現できません。 敬意表現の「はる」「やる」「る」は身内や年下の友人などにも親愛の気持ちを込めて使われます。親しい友人に対して「妹さんもいらっしゃるの」が他人行儀に感じられる時、「妹さんも来るの」では、失礼な気がし違和感があります。そこで親愛を表す「妹さんも来やはるの」と言います。先述したように、言語は感情や考えの表出手段です。親愛を表すことばを身につけてしまったものにとっては、「いらっしゃる」と「来る」だけでは不便を感じてしまいます。 彦根ことばは「関西弁」と呼ばれることばに類似しているため、本書で紹介する彦根ことばは大阪や京都で使われることばと共通するものも多く含まれます。ことばは、そのことばが使われる環境と無関係に成立しているわけではありませんので、本書では彦根ことばのみを紹介するのではなく、その背景にも触れていくことになりますが、そこには次の三つのスタンスが考えられます。 一 彦根特有のもの 二 関西特有のもの 三 どの言語にも共通するもの 彦根には、他の関西圏にはない武家ことばが残っています。それは彦根が長く井伊家の藩領であったことが彦根ことば特有の背景になっています。「なーし(~ですね)」などです。(清水史氏の「愛媛のことばはやわらかくてやさしい」によると愛媛県の南予地域でも「なーし」が使われるそうです。) 同時に大阪ことばや京ことばの影響を受けた「関西弁」とよばれることばで、共通語にはない関西圏という地域共通の特徴です。「行かへん(行かない)」、「ほんま(ほんと)」などです。 そして、彦根ことばにせよ、関西ことばにせよ、人間が操る言語であり、どの言語にも見られる共通の背景があります。彦根では彦根城を「お山」と呼んだり、琵琶湖を「海(うみ)」と呼んだりします(近江ことばに共通します)。この背景には多く言語が持つ普遍的な背景があります。 本書ではこの三つの背景と共通語への置き換えに焦点を当てながら彦根ことばを紹介して行きます。

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