じつは7年も続けられるとは思っていなかったんです。

──それでは、お三方に第1次からの発掘を振り返っていただきたいと思います。

第1次開会式のようす

第1次開会式のようす(2013年4月27日)

小早川 第1次発掘は、町をあげて大々的にオープニングイベントなどもやったんですよ。前日には町役場で結団式をして。

小早川 最初はそれまで化石などになじみのなかった町民の方に学んでもらう場として、学習会も頻繁に開催しました。

 第1次発掘を始める前に試掘したところ、シカの中手骨が見つかり、プロジェクトへの期待が高まりました。実際、1次発掘でも次々シカの骨が見つかり盛り上がりました。目標は2頭目のアケボノゾウですが、以前もシカの発見に続いて見つかりましたので今後に期待をもっています。

──翌年の第2次発掘はいかがでしたか。

但馬 2次から重機を入れて、地形が斜めでの発掘になりました。今回(7次)のようにそれぞれの地層面を把握して、それにあわせて掘るようになったのは、次の第3次発掘からです。事前に掘り方の説明をして、基準面を設けて、丁寧な掘り方になったと思います。

──その第3次発掘は、15日間にわたり、のべ人数200人※1、規模的には最大ですね

小早川 この時は雪が降って大変でした。3月13日に大雪が降って、翌14日の初日は雪かきから始まったんです(苦笑)。

──今年は雪がなく乾燥していたそうですが、湿っていた方が掘りやすいんですか?

小早川 カチカチよりは湿ってる方が掘りやすいですね。粘土なので、雨が降ってズルズルになってしまうのも困るのですが。
但馬 7次でも雨が降ってズルズルの日もありました。そういう日は出てきません。

第4次発掘現場での学習会のようす(2016年4月24日)

第4次発掘現場での学習会のようす(2016年4月24日) 発掘プロジェクト事務局提供

──つづいて4次はいかがですか。

小早川 4次では、2日目の24日にワニの歯が出たんです。琵琶湖博物館の山川千代美さんがポコッと叩いたら出てきたって(笑)。この歯は太短いのでヨウスコウアリゲーターではないかと探ってみましたが、歯1本だけでは結論を出すに至りませんでした。

 この4次までが終わった翌年(2017)3月に報告書『180─190万年前の古環境を探る』を多賀町教育委員会が発行しました。そこで、化石の種類ごとに専門班の研究者が出土化石について考察なさいました。

──では、報告書を参考に、まず植物は。

小早川 ヒシの実がたくさん出ますし、メタセコイヤなどの湿地林にブナのなかまなどが隣接している、これまでの推測と矛盾しない結果が出ているようです。肉眼では見えない花粉やケイ藻も、総合的な環境を考えるために重要なので、発掘現場で粘土を採取して、室内で分析していただいています。

──貝についてはいかがでしょう。

小早川 貝の場合、割れているなど、保存状態が悪いものが多いです。絶えず水があったのではなく、干上がって陸になってしまうこともある水位変動の激しい当時の環境を示しているのかしれません。そもそも貝が当初の予想よりも少ないんです。

但馬 ここの四手丘陵を開発している時には、たくさん貝が出る地層があったそうです。距離的にはそう離れていないのですが。

──つづいて昆虫はいかがでしょう。

小早川 それまで古琵琶湖層で報告されていた昆虫化石はわずか5例だったそうなので、大幅に化石数は増えました。翅が玉虫色できれいなアオヘリネクイハムシというなかまは、現在日本にはおらず、シベリアからヨーロッパにかけて分布していて、水草(浮葉植物)の葉を食べている虫だそうです。

化石

──魚の化石は主に咽頭歯、コイやフナの喉にある歯だそうですね。

小早川 それまで蒲生層で見つかった化石は非常に少なかったので一気に増えました。

但馬 咽頭歯はクリーニングにとても時間がかかるので、分析にはまだ時間がかかるみたいですね。

小早川 珍しいものでは、肉食の魚の尖った歯らしきものも見つかっています。

──哺乳類ではシカが見つかっていますね。

小早川 哺乳類はすべてシカのようで、また同じ部位の骨がほとんど出ていないことから、見つかった化石はせいぜい2頭分ほどの骨が散らばったもののようです。発掘調査地から100m弱しか離れていないアケボノゾウの発見地では、1頭分のシカがバラバラにならず丸ごと出ています。そうした出方の違いは、沼の岸辺と中心部といった環境の違いがあるのかも知れません。

──最後に、爬虫類は。

小早川 先ほどお話しした4次で出たワニの歯以降、5次・6次でもワニの歯が見つかり、カメの甲羅も出てきました。

──他に発掘調査で印象に残っていることはございますか。

小早川 発掘隊員には将来、研究者になりたい大阪の高校生や恐竜好きの小学生もいます。父母あるいは祖父母といっしょの小学生の参加もあり、多様な世代が年齢を超えて楽しく発掘が進められてきたことが印象に残っています。

但馬 専門班として琵琶湖博物館の高橋啓一館長をはじめ学芸員の皆さんが来ていただける体制になっている点も大きいですね。

小早川 琵琶湖博物館は、はしかけグループ「古琵琶湖発掘調査隊」の皆さんの存在も大きいです。それから滋賀県立大学の学生さんには、ケイ藻や花粉の研究に取り組んでいただいています。

 じつは最初は3年ぐらいで区切りとするつもりで、7年も続けられるとは思っていなかったんです。次々、一般参加者も研究者も新しい人が来るようになって、その力に押されて続けてこられたと感じています。

糸本 毎年募集している「多賀町発掘お助け隊」には、多賀町民以外でもお申し込みいただけます。気軽にご参加ください。ビギナーズラックみたいなのもありますよね。5次の時だったか、初めての参加者が、オリエンテーションなどが終わって、ツルハシを振るった瞬間にパカッと骨が出てきたとか。

但馬 でも、それから後は出なくて(笑)。
(2019・6・13 多賀町立博物館にて)

多賀町古代ゾウ発掘プロジェクト1次発掘から7次発掘までの参加者数と採集化石数の集計(事務局提供のデータをもとに作成)


※1 発掘調査団は、以下で構成されている。
 はしかけ古琵琶湖発掘調査隊 滋賀県立琵琶湖博物館の自主活動グループ「はしかけ」のメンバー。
 多賀町発掘お助け隊 第5次発掘から、多賀町民で構成された「多賀町発掘隊」と町外から募集した発掘ボランティア「発掘お助け隊」があわせて活動。
 専門班 滋賀県立琵琶湖博物館学芸員ほかの専門的知識をもつ方々。
 事務局 多賀町教育委員会生涯学習課、多賀町立博物館、アミンチュプロジェクト。


編集後記

これまで7次にわたる発掘で見つかっている化石の総計は、のべ参加人数の約2倍、植物化石数はのべ参加人数とほぼ同数なので、1日参加すると、1人あたり植物化石1点と他の化石1点が見つかるのが標準的な成果のようです(7ページのグラフ参照)。私が見つけたのも、炭化木材と昆虫の翅の2点でした。4月にしてはありえない暑さの日だったので、帰りの車の中で顔がヒリヒリしてきて、日焼け止めを塗ってこなかったことを後悔しました。(キ)


ページ: 1 2 3 4 5 6 7

連載一覧

新撰 淡海木間攫

Duet 購読お申込み

ページの上部へ