新撰 淡海木間攫

其の四十 天蚕(ヤママユ)の雌雄型

 ヤママユはヤママユガあるいは天蚕とも呼ばれ、ヤママユガ科に属する大型の蛾の仲間で、日本、台湾、韓国、中国、ロシア、スリランカ、インドおよびヨーロッパに分布し、滋賀県の里山にも多く棲息しています。幼虫は、里山に生えているクヌギ、アベマキ、コナラなどのいわゆるドングリの木の葉を食べて育ちます。1年に1回だけ発生する蛾で、卵の状態で越冬します。近畿地方では、餌となるクヌギなどが萌芽する4月中・下旬頃に孵化し、4回の脱皮を経て終齢幼虫となり、6月上・中旬頃、孵化から50~60日で葉を数枚綴り合わせて営繭(繭づくり)を開始し、葉と同色の繭をつくります。

 この繭は高価な緑に輝く天蚕糸の原料になります。長野県穂高地方では江戸時代の天明年間(1781~89)から天蚕の飼育が始められました。美しい光沢をもつ天蚕糸は、今も「繊維のダイヤモンド」と呼ばれて珍重されており、長浜市力丸町(旧浅井町)では1982年に浅井町天蚕組合を発足させ、天蚕繭の生産から天蚕糸を用いた加工品づくりまでの一環した事業に取り組んできましたが、現在は活動を休止しています。しかし、新たに東近江市上二俣町(旧永源寺町)でもクヌギを植栽して天蚕の大量飼育の準備を始めています。

 天蚕の交配組合せの中から、左半分がメス、右半分がオスの奇妙な蛾が出現してきました。天蚕の生きたままの雌雄型は、世界で初めての写真です。天蚕の雌雄型の報告は、今までで2~3例しかありませんが、すべてが死んだ標本の写真です。

 昆虫には、細胞分裂の際の生殖細胞の異常によって体の雌雄の特徴が混じり合ったものが生まれることがあります。オスとメスの混ざり方は、左右半分、上下半分など様々で、これは細胞分裂のいつの時期に起こるかによって決まります。これを雌雄型または雌雄モザイクといい、専門用語でジナンドラモルフォといいます。生殖器が雌雄型になると、蛾の体の中で、精子と卵の両方をつくります。

 天蚕のメス蛾は、前翅の先が丸く、触角が細くなっています。一方、オス蛾は、前翅の先がとがり、触角が太く、櫛状になっています。雌雄型では、左では前翅の先が丸くなり、触角が細くなり、右では前翅の先がとがり、触角が太い櫛状になっています。今回2頭の雌雄型が出現しましたが、1頭はメス腹で卵巣が発達していましたが、もう1頭はオス腹で卵巣が発達していませんでした。

 昆虫の雌雄型の報告は、クワガタムシやカブトムシなどの甲虫類やアゲハチョウなどの蝶類などで若干あり、その出現率は一般に1万分の1程度であると言われています。

東近江地域振興局農産普及課 寺本憲之

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