新撰 淡海木間攫

其の五十六 雷雲蒔絵鼓胴 (銘 初音)

MIHO MUSEUM 桑原康郎

雷雲蒔絵鼓胴 (銘 初音)

1口 室町時代 15世紀 高27.5㎝ 口径12.5㎝


 雷光を螺鈿と高蒔絵、渦巻く雲を高蒔絵と截金で表わした豪華な鼓胴で、白拍子であった静御前が所用し、雨乞いの鼓として知られる「初音の鼓」との伝承を持つ。また、鼓の受にある朱漆の銘文より、永享2年(1430年)源左京大夫持信が琵琶湖の竹生島に奉納したことがわかる。竹生島には水に関係のある弁財天様や龍神様が祀られており、雷雲の蒔絵はまさに相応しい。雷鳴のような鼓の迫力ある音が聞こえてくるようだ。
 この鼓胴には織田信長の書状が2通付随している。その内の1通は信長から竹生嶋惣山中宛の朱印状で「青葉の笛は到来した。まことに見事な名物である。しばらく手元において見たのち返す。この笛を当山へ寄進したのは誰で、その子細はどのようなことか、これに添う小笛の由来についても知りたい。また静所持という小鼓の胴は雷の蒔絵と聞く。ぜひ見たいものである。磯野に申しておくのでよろしく頼む」とある。ここから、信長が竹生島に寄進されていた「青葉の笛」と共に、この「雷の蒔絵の小鼓」を見たであろうことが読み取れる。
 「青葉の笛」にもさまざまな伝承があるが、その一つとしてまず平家の笛の名手・平敦盛の名が思い浮かぶ。「敦盛」といえば信長が好んで舞ったと伝えられる能の演目であり、「青葉の笛」や「雷の蒔絵の小鼓」をぜひ見たいと所望した信長の執心ぶりを彷彿とさせる。この「青葉の笛」は弘化2年(1845)、当時の彦根藩主・井伊直亮の要望により竹生島から献上され、現在は彦根城博物館の所蔵となっている。
 本作は、蒔絵技法や寄進銘からみて、製作年代は静御前の生きていた時代まで遡らないと考えられるものの、天正年間には静御前所用の鼓として伝えられた名器である。


参考文献
灰野昭郎「雷雲蒔絵鼓胴」
  『学叢』第五号 京都国立博物館 1983
加藤 寛『日本の美術No. 477 蒔絵鼓胴』 至文堂 2006
『MIHO MUSEUM 北館図録』 MIHO MUSEUM 1997

新撰 淡海木間攫 | 一覧

ページの上部へ