新撰 淡海木間攫

其の三十三 ヨシと共生する付着微生物たち

顕微鏡で見た付着状況の概念図

近江舞子沼のヨシの付着状況 ヨシ群落は琵琶湖の原風景であり、水辺の環境を守る大切な植物です。ヨシ群落には色々な働きがありますが、その中のひとつに水質保全の働きがあります。水の流れをせき止めて水中の汚濁物質をより早く沈殿させたり、ヨシの水中茎の付着微生物による有機物の分解やヨシ自身の成長による窒素やりんの除去などです。

 ここではヨシの水質浄化作用にとって、大切な役割を荷なっている付着微生物を紹介します。水中のヨシ茎に付着する微生物は大別すると、三つのグループに分けられます。第一は水中の栄養塩(窒素やりん)をとって光合成をする藍藻、珪藻、緑藻などの微細藻類(生産者)、第二はそれを食べる原生動物、輪虫などの小動物(消費者)、そしてそれらの死骸や流入有機物を分解するバクテリアの仲間(分解者)です。出現する種類は水質や水流などの微環境の違いやヨシの生活活性によっても異なりますが、私が今までに見た代表的な種類をいくつか図で紹介しましょう。第一の優占種は緑藻のサヤミドロ。付着器がありしっかりヨシの茎に付着して糸状に伸びてゆきます。そのうえに柄のある珪藻、帯状の珪藻や他の糸状緑藻(アオミドロ)、藍藻などが絡まって付着し、ゆらゆら揺れながら生活しています(写真)。さらにヨシの茎を包んでいる葉鞘の表面には珪藻のコッコネイス、藍藻のプレウロカプサや緑藻のコレオケーテなど10ミクロン (1/100mm)ほどの小さな単細胞植物がぴったり付着して、いろいろな形の群体を作っています。さらにこの森の中を泳ぎまわってそれらを食べるワムシや原生動物のアメーバ、柄を持つツリガネムシの仲間など多種多様の生物たちが生活しています。時には大型のヒメタニシがそれらをなめてしまうこともありますが、最後にはバクテリアによって分解され、一部は底泥に沈積して再びヨシの栄養となり、一部はその場で再利用、一部は流れによってこの森の外へ出て行きます。生活の場を提供してくれるヨシと共にこのような付着微生物たちの生命の絶え間ない物質代謝のサイクルによっても水は浄化されるのです。ちなみに私の調べた琵琶湖の内湖の一つ、安曇川町にある五反田沼では、10cmの長さの茎に約0.5cc(1昼夜殿量)の微生物が付いていました。もし琵琶湖のヨシの全茎付着微生物量を積算すればおそらくすごい量になることでしょう。今日はほとんど知られることもなくひっそりと、しかし、相互にかかわりを持つ小宇宙の中で生命の営みを続けながら役立っている微生物たちが存在することを紹介しました。

*写真:近江舞子沼のヨシの付着状況
*図 :顕微鏡で見た付着状況の概念図

滋賀県琵琶湖研究所 客員研究員 巌 靖子

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