2016年 3月 05日

おうみ学術出版会

 2015年の暮れも押し詰まった12月25日、彦根市の滋賀大学本部で、おうみ学術出版会の調印式が行われた。
滋賀大学と滋賀県立大学とサンライズ出版が「おうみの地ならではの学術研究の成果を、わかりやすい表現の学術書として世に広め、大学と地域内外との対話を深め、近江の知の拠点形成に資する」ことを目的に、おうみ学術出版会を設立した。
全国に大学出版会は50ぐらいがあるようだが、滋賀県内にはこれまで、大学独自の出版会はなかった。
とはいえ、学外の人々の購読を目的とする書籍の出版が皆無ではなく、成安造形大学附属近江学研究所の『近江学』や、滋賀県立大学の「環境ブックレットシリーズ」は、根強いファンがあり健闘している。

『近江学』は成安造形大学の研究紀要として創刊されたが、今では毎年テーマを決めて、学外の研究者や写真家、学生も参加して、ビジュアル中心の上品な刊行物になっている。やがて近江の様々な事象に焦点をあてた美術図鑑になるのではないかと期待している。

一方、滋賀県立大学のブックレットは、開学の精神である、環境教育や環境研究におけるフィールドワークの重要性を教員と学生が現場での経験を共有しつつ対話を通して学ぶという形式がブックレットにも反映されている。いずれも教員や学生だけを対象にせず、広く一般市民に向けた刊行物である。

このような動きの中で、滋賀大学からは、市民に向けた刊行物は少なかった。こうした事態解消のためでもあろうが、出版会設立は滋賀大学中期計画に組み入れられ、創設にいたるまでの4年の年月を費やし準備を進めてこられた。
書籍の販売高はここ20年間、ずっと右肩下がりで、状況は非常に厳しいが、大学の存亡もまた同様の厳しさがあり、自らが有する研究の成果を広く発信する事に腐心されているのである。

おうみ学術出版会は、滋賀大学と滋賀県立大学がともに手を携え、専門分野に閉じこもりがちな従来の学術出版とは異なる新たな領域を拓いて若い才能も支援したい、との熱き志にあふれている。そして、本出版会の創刊冊として『江戸時代 近江の商いと暮らし―湖国の歴史資料を読む―』が、3月内に刊行予定となっている。
本書は、滋賀大学経済学部附属史料館館長の宇佐美英機氏の指導を受けた研究者それぞれが、本史料館をはじめとする県内の歴史資料を読み解く。
17万余点の古文書を収蔵する本史料館は、歴史資料の散逸を防ぎ、研究・教育に活用することを目的に1935年、近江商人研究室として設置されたことに始まり、ここには、いずれもが重要文化財の菅浦文書、今堀日吉神社文書、大島・奥津嶋神社文書をはじめ、多くの近江商人関連文書や区有文書、第百三十三国立銀行(現滋賀銀行)帳簿など、中世から近現代にいたる重要史料の宝庫である。
史料館の存在が彦根の大学への赴任の動機となったと話されていた研究者もあったぐらいその存在は大きい。こうした史資料を基により広く研究成果を世に問い、滋賀には滋賀大学あり、滋賀県立大学ありとその存在を高らかに知らしめ、一層光り輝く地域文化発信のお手伝いができることを願う。
(2016年3月4日京都新聞夕刊「現代のことばより」

コメントはまだありません

コメントはまだありません。

この投稿へのコメントの RSS フィード。

最近の記事

カテゴリー

ページの上部へ