琵琶湖岸からのメッセージ

琵琶湖岸からのメッセージ 保全・再生のための視点

西野 麻知子 編, 秋山 道雄 編, 中島 拓男 編
B5 248ページ 並製
ISBN978-4-88325-624-2 C1045
奥付の初版発行年月:2017年10月
書店発売日:2017年10月05日
近日刊行予定
3500円+税

内容紹介

滋賀県琵琶湖研究所が開設されて4年目の1986年からと、滋賀県琵琶湖環境科学センターに統合された2年後の2007年からの各4年間、琵琶湖岸を1㎞毎に区分し調査したデータを基に湖岸の現状と変遷を社会科学、地理学、生物学の観点から論じられたものである。
 魚類の漁獲量が激変し、外来植物や南湖での水草の繁茂など、琵琶湖の変貌が目に見え始めたのが、第一期調査の後あたりである。
 平成27年国会で「琵琶湖の保全及び再生に関する法律」が施行され、滋賀県では平成29年に「琵琶湖保全再生施策に関する計画」が策定された。今後の琵琶湖岸の保全・管理・再生に向けた取り組みを考えるにあたり、参考とすべき恰好の一冊。

目次

序 章  本書の概要/西野麻知子

1章 琵琶湖沿岸域の特性と課題
1-1 対象としての琵琶湖沿岸域とその変遷/秋山道雄
1-2 歴史的自然としての沿岸域/秋山道雄
コラム1-1 琵琶湖総合開発事業/秋山道雄
コラム1-2 湖岸と沿岸域の範囲/西野麻知子
1-3 湖の生態学的構造と琵琶湖の生物多様性/西野麻知子
1-4 琵琶湖の水位変動と生態系への影響/西野麻知子

2章 湖岸地形の特徴と変遷
2-1 多様な湖岸地形を有する琵琶湖/辰己 勝
2-2 琵琶湖の湖岸地形の特性と現状/辰己 勝
コラム2-1 湖岸を見るときの座標系(湖岸を見る視点)/中島拓男・西野麻知子 
2-3 琵琶湖の湖岸地形の変遷/東 善広
コラム2-2 ヨシ帯面積の変遷/東 善広
コラム2-3 地形図と航空写真からみた愛知川河口域における湖岸線変化/東 善広
2-4 9地域の湖岸線の変遷と湖岸形態の現状/辰己 勝・東 善広
コラム2-4 浜欠け/辰己 勝

3章 湖岸植生の特徴と近年の変化
3-1 人との関わりの結果としての湖岸植生/金子 有子・佐々木 寧
3-2 本湖湖岸の代表的な植物群落/金子 有子・佐々木 寧
コラム3-1 保全価値の高い海浜植物と氾濫原植物/金子 有子
3-3 湖岸植生の遷移系/金子 有子・佐々木 寧
3-4 代表的な植生と近年の変化/金子 有子・佐々木 寧
コラム3-2 湖国の原風景?ヨシ帯とヨシ群落/金子 有子
3-5 湖岸全域での近年の変化の概要/金子 有子・佐々木 寧
3-6 湖岸植生の保全に向けて/金子 有子・佐々木 寧

4章 水草(沈水植物)の現状とその変遷
4-1 沿岸帯とは/浜端悦治
4-2 琵琶湖の水草(沈水植物)の現況/浜端悦治
4-3 沈水植物の変遷/浜端悦治
4-4 琵琶湖の過去の水草を見る-中国雲南省?海の水草/浜端悦治
4-5 琵琶湖の環境変化と水草/浜端悦治
4-6 湖岸形状と湖岸の固定化-沿岸帯を考える/浜端悦治
4-7 水鳥と水草との関係/浜端悦治
コラム4-1 水草と水鳥の関係 水鳥は悪役?/神谷 要
4-8 健全な湖岸に向けて-景観生態学的視点の必要性/浜端悦治
コラム4-2 侵略的外来種対策、いたちごっこになる前に/金子 有子
4-9 近年の南湖の水草繁茂と人為的刈取りの功罪/石川可奈子・井上栄壮

5章 底生動物の現状とその変遷
5-1 底生動物とは/西野麻知子
5-2 琵琶湖の湖岸類型と湖底の底質/西野麻知子
5-3 動揺性地域と静水性地域/西野麻知子
5-4 琵琶湖岸の底生動物と湖岸環境/西野麻知子
5-5 水産試験場による沿岸部の底生動物調査/西野麻知子
5-6 1980年代の底生動物の分布/西野麻知子
5-7 2000年代の底生動物の分布と変遷/西野麻知子
5-8 底生動物相の長期変遷とその要因/西野麻知子
5-9 琵琶湖の底生動物相の保全に向けて/西野麻知子
コラム5-1 貝類漁獲量の減少とその要因/西野麻知子

6章 魚類と湖岸環境の保全
6-1 淡水魚の重要な生息地 琵琶湖/藤岡康弘
6-2 琵琶湖の魚類相の特性/藤岡康弘
6-3 琵琶湖の主要な魚類の変遷/藤岡康弘
6-4 琵琶湖本来の魚類相の回復・保全に向けての提案/藤岡康弘
コラム6-1 琵琶湖の価値とその利用/藤岡康弘

7章 水鳥の現状とその変遷-価値ある湖岸湿地保全のために
7-1 琵琶湖の水鳥調査小史/須川 恒・橋本啓史
7-2 琵琶湖に生息する水鳥の個体数と分布/橋本啓史・須川 恒
7-3 琵琶湖で増えた水鳥、減った水鳥 橋本啓史・須川 恒
7-4 水鳥を通して価値ある琵琶湖の湿地環境を保全するために/須川 恒・橋本啓史
コラム7-1 水鳥はいつどこで何を食べているのか/橋本啓史・須川 恒
コラム7-2 琵琶湖の鳥類とレッドリスト種/橋本啓史・須川 恒

8章 保全のための琵琶湖をみる視点
8-1 「大湖沼としての琵琶湖」と「沼地としての琵琶湖」/西野麻知子・東 善広・辰己 勝
8-2 「沼地としての琵琶湖」の変化/西野麻知子・東 善広・辰己 勝
8-3 「大湖沼としての琵琶湖」の変遷/西野麻知子・東 善広・辰己 勝
8-4 「大湖沼としての琵琶湖」と「沼地としての琵琶湖」の分断/西野麻知子・東 善広・辰己 勝
8-5 湖岸生態系の保全・修復にむけて/西野麻知子・東 善広・辰己 勝
8-6 琵琶湖湖岸の共通座標の重要性/西野麻知子・東 善広・辰己 勝
コラム8-1 琵琶湖の水辺景観/秋山道雄

9章 沿岸域管理に向けて
9-1 視点と方法/秋山道雄
9-2 沿岸域の改変と評価/秋山道雄
9-3 琵琶湖の沿岸域研究の経緯/秋山道雄
9-4 研究成果の政策的含意/秋山道雄
9-5 新たな沿岸域管理に向けて/秋山道雄
9-6 結びにかえて/秋山道雄

終章 琵琶湖岸の風景の保全
1 琵琶湖の原風景と将来の風景像/吉良竜夫
2 風景をどう楽しむか/吉良竜夫
3 自然景観の保護/吉良竜夫
4 人文景観の保護/吉良竜夫

巻末表1 琵琶湖岸の5㎞区間位置/東 善広
巻末表2 琵琶湖の湖岸生態系に関するおもな出来事/西野麻知子・藤岡康弘
用語説明
引用文献

前書きなど

終章 琵琶湖岸の風景の保全
           吉良竜夫
 これは、純科学的な話題ではない。科学の立場からは、自然景観や人文景観の学術的価値を評価したり、湖岸生態系が水質悪化や湖岸侵食をふせぐ機能を明らかにして、それをどのように保全すべきかを指摘したりすることはできる。しかし、どんな風景をどう保全するかは、科学的情報とまったく無関係ではないけれども、一般には、科学をこえたもっと広い立場からの「選択」の問題になる。したがって、以下にのべるのは、われわれの研究グループが「選択」した方向を、筆者の責任でまとめた提言と考えていただきたい。 このような提言をしようとする直接の動機は、いま琵琶湖岸で進行中の開発事業に、風景――とくに大局的な風景――に対して無神経で、好ましくないものが多いからである。湖岸堤の外側にせっかく残してある水辺林で、下生えのヨシや湿地植物を刈り取って庭園樹種(その多くは育つ見こみがない)を植え込む。水質浄化に役立てることをうたった内湖の改造事業で、浄化の主役であるヨシ・マコモなどの自然の水生植物をハナショウブやホテイアオイに置きかえる。自然のよく残っている北湖の湖岸に、まわりの景観にそぐわない建物や遊園地を作ったりする。そういうたぐいの開発あるいは「修景」事業が多いのである。 それぞれの土地に固有の風景は、観光地にとって最大の資源である。一部に異国ふうの風景を作るのも、観光施設としては必要かもしれないが、その結果、固有の風景がそこなわれたり連続性を失ったりすれば、長い目で見れば観光地としての存在価値をなくしてしまうことになる。国際的に著名な観光地の美しい風景は、決して放置したままの姿ではなく、目に見えないところで絶えず細心の注意をはらい、そこでしか見られない風景の保全と修復に努めていればこそ、いつも多くの観光客をひきつけることができるのである。琵琶湖にかぎらず日本の多くの観光地では、そういう意志も努力も不足しているように思われる。

著者プロフィール

西野 麻知子(ニシノ マチコ)

1982年 京都大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学
1982年 滋賀県琵琶湖研究所研究員
2005年 琵琶湖・環境科学研究センター総括研究員
2007年 琵琶湖環境科学研究センター琵琶湖研究部門長
2008年 琵琶湖環境科学研究センター総合解析部門長
2012年 びわこ成蹊スポーツ大学教授
現 在 びわこ成蹊スポーツ大学特別招聘教授
専 門 陸水動物学、保全生物学
琵琶湖の底生動物をつうじて琵琶湖固有種の進化、琵琶湖の環境変化を研究しており、最近は琵琶湖岸の生物多様性保全の研究を行っている。
主な著書等 『内湖からのメッセージ』(共編著2005, サンライズ出版)
『とりもどせ琵琶湖・淀川の原風景』(編著 2009, サンライズ出版)
『Lake Biwa: Interactions between its Nature and People』(共編著2012, Springer)
『滋賀の水生動物・図解ハンドブック改訂版』(監修 2017, 新学社)など。

秋山 道雄(アキヤマ ミチオ)

1982年 大阪市立大学大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学
1982年 滋賀県琵琶湖研究所研究員
1994年 滋賀県琵琶湖研究所専門研究員
1995年 滋賀県立大学環境科学部助教授
2003年 滋賀県立大学環境科学部教授
現 在 滋賀県立大学名誉教授
専 門 経済地理学、環境政策論
 水資源や水環境に関する課題を、社会科学的側面から研究してきた。琵琶湖については、集水域や沿岸域の環境変化とその政策的含意を対象に実証分析をベースにおいて研究を進めている。
主な著書等 『琵琶湖流域を読む』上・下(共編著 2003, サンライズ出版)
      『琵琶湖発 環境フィールドワークのすすめ』(共編著 2007, 昭和堂)
『環境用水―その成立条件と持続可能性』(編著 2012, 技報堂出版)
      『琵琶湖と環境』(共編著 2015, サンライズ出版)

中島 拓男(ナカジマ タクオ)

1974年 東京都立大学大学院理学研究科生物学専攻博士課程単位取得退学
1982年 滋賀県琵琶湖研究所 主任研究員
1999年 同研究所上席総括研究員
2006年 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター琵琶湖研究部門長
現 在 認定特定非営利活動法人びわ湖トラスト理事
専 門 微生物生態学
主な著書等 『河川・湖沼・水辺の水質浄化、生態系保全と景観設計』(分担執筆1993, 工業技術会)
『世界の湖』(分担執筆 1993, 人文書院)
『びわ湖を語る50章』(共編著 2001, サンライズ出版)


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