特集 風力発電

 風の力によって風車を回し、電気を起こす風力発電は、クリーンな21世紀のエネルギーとして、欧米で急速に実用化が進んでいます。
 滋賀県でも、草津市が同市北端の烏丸(からすま)半島にある市立水生植物園みずの森駐車場内に出力1500kWという国内最大級の風力発電機1基を建設。7月7日(土)、通電式がおこなわれました。計画段階から関わられた市役所の担当者の方にお話をお聞きしました。


草津市立水生植物公園みずの森

 日本有数のハスの群生地のそばにある植物園。中心施設として、水生植物に関する資料の展示室やアトリウム(温室)を備えたロータス館がある。
【TEL】077(568)2332
【入園料】大人300円、高・大生250円、小・中学生150円
【開園時間】午前7時~午後7時(最終入園午後6時半)

【休園日】月曜日・年末年始


●編集部インタビュー

草津市市民経済部環境課 高木壽治さん
―7月10日(火)午前10:00~ くさつ夢風車表示盤前にて―

夏は風が少ないんです。通電式は本当にヒヤヒヤでした。

▽(編集部)いま止まってますね。

▼風が弱いと回らないんです。回るのは風速が2.5m/秒以上の時で3.0m/秒以上になると発電を開始します。ただ、瞬間的に吹いたからといっても回りません。あのお尻の側に風力計がついていて、風速を常時観測しています。そして、今まで発電した量が、ここに表示されているように6MWh(メガワットアワー)。1MW=1000kW=100万Wです。運転してから現在までです。1年間の発電量を試算し、1200MWhと考えています。これは、「みずの森」の年間電力使用量1117MWhと、ほぼ同じです。一般の家庭の使用量になおすと、約320軒分に相当します。

▽部品一つが大きいものだから、非常に大きく見えますよね。

▼1枚の羽根の長さが35m。新幹線の車両の1両分の長さが25mですので、それより10m長いわけです。
 本体の中には、羽根の回転を速くする機械と発電機が入っていて、そこで起こった電気が支柱の中を通って、下の地中に埋められている関西電力さんの線に流れるという仕組みです。発電機というのは、モーターの反対で、モーターは中にコイルがあって電極の変化によって回転軸が回りますが、逆に回転軸が回ることによって電気が起こるわけです。

▽頭は風向きに合わせて動くんですか?

▼向きは360度回転します。さらに、風の強さによって羽根の角度も変わります。原理は飛行機の羽根と同じです。断面 が流線型になっているので、表を流れる風と裏を流れる風の力の差によって「揚力(ようりょく)」が起こるわけですね。羽根1枚の重さが約5t。3枚で15t。非常に重いわけですが、これがたかだか2.5m/秒ぐらいの風で回ることができます。

▽午前中はあんまり風がないんですね。

▼通電式をおこなった7月7日の土曜日と翌日曜日はけっこう風があって幸い一日中回っていましたね。ちょっとパフォーマンスとして、八日市市の大凧まつりの「風の女神」お二人を招いて、大きな団扇(うちわ)であおいでもらい、通電のスイッチを入れたときに、うまく回り始めまして、拍手喝采でした。夏の今ごろは一番風がないときなんです。回らなかった場合のシナリオも用意していたのですが、本当にヒヤヒヤでした。

▽いまも一応、風を感じますが、まだダメですかね。

▼ぜひ、回るところを見ていただきたいんですけどね。どうかな。

▽完成は予定より遅れたそうですが…。

▼ そうです。これは、環境学習などに利用してもらう、大きな教材の役割もあると考えていますので、今年3月にそこの空き地で催された「こどもエコクラブ全国フェスティバル」で子どもたちに見てもらおうと考えていたわけですが、間に合いませんでした。問題になったのは、電気の周波数。日本の場合、東の方は50 ヘルツ、滋賀県も含めて西日本は60ヘルツなんですね。ところが、世界では50ヘルツが一般的で、60ヘルツというのは西日本とアメリカだけ。ドイツのメーカーですから、このクラスの60ヘルツのものは初めてだったんです。
  さらにドイツでは特に風力発電が急速に伸びていて受注が多かったのも重なって、3カ月ほど遅れて、6月14日にようやく羽根がつきました。 じつはこれ、ロータス館の自家発電設備なんです。

▽よくわかっていないのですが、電力会社以外が勝手に電力をつくることは許されているのですか?

▼できるようになったのは5~6年前からです。以前は日本の場合、発電所から変電所へ、さらに各家庭や工場へという電気の流れは一方通行で、逆というのは認められなかったわけです。ところが、CO2(二酸化炭素)の削減などの要請から、政府の働きもあって、自治体などが風力発電をして電力会社に売ることができるようになりました。じつは、この風力発電はロータス館の自家発電設備という取り扱いになっているんです。

▽なるほど。大きな工場や病院だと、停電した時のためにありますね。

▼そのため、電力を売る場合の値段を、買っている値段と同じにしてもらうことができました。通常、北海道や東北の設備の場合ですが、単に売るだけの場合ですと、安く設定されています。いい条件になったわけです。

▽日本の風力発電は、北海道や東北などに多いんですね。近畿には少ないせいか、これほど日本にあるとは知りませんでした。ここは植物の温室、水槽や池でけっこう電力を使うわけですか。

▼年間約2000万円、基本料が500万円、使用料が1500万円ぐらいになっています。この1500万円の方は自分で賄うことができるわけです。

▽この風車の事業費が…。

▼3億1000万円。NEDO(ネド)から約1億4000万円の補助を受けました。そして、約1億7000万円が草津市からのお金です。年間の維持費などを考えても、17年ぐらいでペイできるという計算になります。

▽他の風力発電所の事業費なども調べたんですが、それに比べると安いですね。

▼そうです。通常1kW当たり25~30万円かかるんですが、これの場合は20万円ぐらいでできています。
  また、電力会社側からみても、国の施策でクリーンなエネルギーを積極的に使わなければならなくなってきています。ですから、関西電力さんも積極的で、非常に協力していただきました。

▽この事業が計画された始まりというのは何年前になるんですか?

▼平成12年度の予算要求ですので、平成11年の秋ですね。市長が、1億円の特別枠を設けて「草津らしさ」をアピールできる事業をすることにしたので、各部でそれぞれアイデアを考えることになり、市民経済部で「風力発電」というアイデアを出したんです。平成12年の1月に最終的に30件ほどあがった中からこれに決定しました。
  その後は、まず1年間風況調査といって、どのくらい風があるか調査をしなくてはいけませんが、近くにその調査をしておられる所がありましたので、そのデータを使わせてもらうことができました。

▽遅れたとはいえ、かなり完成まで早かったと思いますが? 「あれ、何やろ?」と言ってる間にできてしまったというか。

▼NEDOの補助金申請が、平成12年の4月28日が締め切りだったんです(笑)。本当にこれは、いろんないい条件がいくつも重なって、できたというところです。

あっ、あっ。回りましたね。回りましたね(笑)。

▽それまで高木さんご自身は、風力発電についての知識というのは?

▼まったくなかったです。私は環境課にいるわけですが、専門はバケ(化学)でした。ただ、低公害の新エネルギーとして面白いなとは思いましたが。

▽これは、本当に北の方から湖岸道路で来ると、あんまり遠くからは見えずに、カーブを曲がったところで、パッと現れるんですよね。

▼あっ、ちょっと回ったんちゃうかな。

▽あっ、あっ。

▼回りましたね。

▽回りましたね(笑)。

▼(表示盤を見て)4.2m/秒。これで回ります。

▽言われてみると、若干、風が強くなったような気がします。

▼これは、風によってしか回らないんです。動力で回すということはできないんです。

▽逆はできないんですね。回ってるのは、風によって。

来日したドイツの技術者がボルトも自分で締めました。

▼羽根の先が赤く塗ってありますね。あの部分の長さが5mなんです。本来はこれ、航空法の関係で赤白赤白に7段塗らなくてはいけないんです。

▽ああ、高い煙突などのようにですね。

▼昔の風車などは赤白に塗っていたんですが、最近はそれではかえって景観上よくないということで、免除してもらえるようになりました。

▽(笑)。

▼本体部の上の方と羽根の5m、支柱の中ほどの赤いランプ、一応あれで夜間と昼間の航空指標になっています。

▽あれ、羽根は1枚まるごとなんですね。分割してないんですね。

▼そうなんです。支柱だけは日本製ですので、3つに分割して運びました。……回りましたね。よかった。よかった。

▽組み立ての際、ドイツの技術者の方も来日したんですか?

▼来日されました。ドイツの人は自分の作った物に対して責任を持つ意識が非常に強いですね。

▽回るまで見ている?

▼いえ、もっと。ボルトを締める、電線をつなぐというようなことまで、すべて自分でやりました。

「大きいな」と思って見に来ていただくだけでもいいんです。

▽市民の方の反応としてはどうですか?大きな建物が建つと景観に対してどうといった反発もあるかと思いますが。

▼ここは風致地区でもあるんです。ですから、計画の間に県の許可を得るために、渡り鳥に対する影響ですとか、魚に対する影響……影ができて魚の生態に影響するのではないかとか、いろいろな宿題が出ました。琵琶湖博物館の学芸員の方にご意見をうかがいに行ったり。あるいは、電波障害の問題を調べたり。あるいは対岸から見るとどうかというので、大津市の坂本へ行って撮影してきた写真に風車の形を貼ったものを作成したり。これらを資料として、県の風致審査会に提出しました。

▽それほど印象悪くないですもんね。

▼と、思っておるんですけれどもね。手前味噌ですが。やはり、低公害エネルギーの効用というのはもちろんあるけれども、それはそれとして、風致、従来の景観を損なうものであってはならないというのも重要な観点なんです。

▽ほんとに音もしませんもんね。

▼そうです。1回転3秒ぐらいの速さだと真下ではシュッシュッという音が聞こえるんですが、1回転4~5秒ぐらいでは音はほとんどしません。

▽ほんと、こんな近くでも静かなもんですね。なめらかに無音で回ってる感じ。

▼それ、記事では強調しておいてください(笑)。

▽景観としては、回りに高いものが何もないので、いいというのもありますね。みずの森や琵琶湖博物館へ来る時の目印にもなりますし。

▼そうです。単に「大きいな、すごいな」と思って見に来ていただくだけでもいいんです。そして、来館者が増え、自然エネルギーの活用について考えてもらえる機会になればいいなあと考えています。

地域の条件で何がよいかを研究する必要があるでしょう。

▽大きな電力量を得るのを第一とするなら、滋賀県の場合、周りの山脈、鈴鹿山脈の頂上付近などの方がずっと風が強いわけですものね。

▼そうなんです。そうすると、道路をつくったりなど別の費用が非常にかかってしまう。現状では風力発電というのは補完的なものと考えた方がいいのではないかと思うんです。太陽光発電などと併設するような形で。
 滋賀県の場合は風が強いのは冬場で、夏場は風がない。ところが、電気は夏、エアコンなどを使う時に必要になるといった問題もありますから。それぞれの地域の条件で、クリーンなエネルギーとして、風力や地熱、波の力、バイオマスなど、何がよいかを研究する必要があるでしょう。

▽今後、この水生植物園のような施設をつくる際に、最初から自家発電装置を考えてもいいわけですね。

▼そうですね。屋根に太陽電池をつけるとか。製品の面でも、技術開発が進んで、窓ガラス状の太陽光発電も商品化されています。
  ついでに鈴鹿山脈のことでつけくわえると、国定公園に指定されていますからまた大変なんです。おそらく許可は得られないでしょう。学術研究のための風力発電装置に限って認められるだけです。

▽琵琶湖もすべて国定公園ですが?

▼だから、羽根が琵琶湖にかかったらダメなんです。一番最初に気にしたのはそれだったんですよ(笑)。頭の部分は360度回転しますから、どの時点でかかってもあかんのです。

▽(笑)なるほどー。そろそろ終わりとさせていただきますが、最後に何か。

▼風が強いのは、1、2、3月です。夏は少ない。8月に少しあるぐらいです。

▽台風はどうなんですか?

▼ただし、あまり強い風を受けて羽根が回りすぎると、危険なので25m/秒以上になったらロックをかけて停止させるようになっています。たくさん電力が出るわけですが、あんまりガメつい気を起こして回しても恐いですからね(笑)。

▽管理する側の人間性も問われる(笑)。今日はお忙しいところありがとうございました。

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