特集 エコナビ・トルネードプロジェクト

 今年3月から滋賀県が展開中の「夢~舞めんと滋賀 湖国21世紀記念事業」の中に、消費者グループ「エコナビ・エンタープライズ」(彦根市)と「平和堂」(本部彦根市)が協働して手がける「エコナビ・トルネードプロジェクト」があり、NPOと企業のジョイントベンチャーとして注目を集めています。

 おりしも3月7日、同プロジェクトについて、エコナビ・エンタープライズと平和堂各代表者による講演が水口町にておこなわれました(甲賀郡内各町のごみ減量・リサイクル推進協議会会員と環境担当職員が聴講)。今回は講演の要旨を通して、気になるプロジェクトの全貌を皆さんにお届けしたいと思います。

● エコナビ・トルネードプロジェクトのホームページ http://www.biwa.ne.jp/~econavi/


講演 買い物が世界を変える

『エコナビ・トルネード』 ―言葉の意味について  

 皆さん、聞いたこともない横文字だと思われるでしょうがそのはずで、「エコナビ」は我々の造語です。「エコ」というのはエコロジーだとかエコライフ、環境にやさしいイメージの言葉ですし、「ナビ」はカー・ナビ、車の行き先を示してくれるあれです。ここでは水先案内人という意味合いで使ってまして、二つを合わせて「エコ・ナビゲーター」、つまり「環境にやさしい社会への水先案内人」という意味だと理解してくださればいいかと思います。

 ご存知のように滋賀県は「環境先進県」とも言われ、県民の環境に対する関心も高いとされています。ですから日本の中で、まず滋賀県民がエコ・ナビゲーターになりましょうよという気持ちを込めています。

 「トルネード」は、アメリカでちょうど大リーグが始まりましたが、野茂投手が「トルネード投法」というので一躍有名になりました。竜巻という意味なんですが、滋賀県が「ムーヴメント(夢~舞めんと)」と言っていますから、じゃあ我々は竜巻ぐらいの馬力を持ちたいということで名づけました。

キャッチフレーズ 『買い物が世界を変える』

 エコナビ・トルネードは「買い物が世界を変える」をキャッチフレーズにしていますが、実際に滋賀県の人は買い物が世界を変えた記念日というのを持っているんです。約20年前の1980年7月1日。おわかりかと思いますが、「びわ湖条例」が施行された日です。

 この条例が制定できたのには理由があります。当時、石けん運動というのがありました。琵琶湖に赤潮が発生した、これは大変だというので原因を探ると、どうも合成洗剤が琵琶湖を汚している原因の一つだと。それを自分たちで何とかしなければというので、合成洗剤に替わるものは何かということを考えて、我々はちょっと使いにくいけれど石けんを選択をしたんですね。

 運動の最盛期には石けんを使う家庭が全県で約7割にのぼりましたから、ものすごい勢いで普及したことになります。そのパワーが「びわ湖条例」(日本全国で販売されていた有リンの合成洗剤を滋賀県に限って販売・使用・贈答を禁じる条項を含む)をつくったんです。

 この時、石鹸工業会からは、「営業の自由を脅かすことは憲法違反だ!」とものすごい抗議がありました。でも、県民の気持ちは石けんの方に動き、さらに広く全国の自治体や国に大きな影響を与えました。

 こういった歴史があって、「買い物が世界を変える」というフレーズは生まれました。循環型社会の形成が言われる現在、石けんを今度はもっといろんな物に置きかえて、運動を広げていこうと我々は考えています。

『エコナビ・マーク』 ―消費者が選んだ商品

 いまの大量生産、大量消費、大量廃棄の消費社会を、これからは循環型社会に変えていかなければならないことは皆さん、共通の認識になっていると思います。

  ところが実際にはなかなかそうならないのは、我々が慢性病にかかっているからだと言えます。そうかと言って、このままでいいとは誰も思っていない。しかも、意識を変えるだけでは何ら変わらない。意識とともに社会そのものの仕組みを変えなければ、どっぷりつかった今の消費社会からは抜け出せないでしょう。

 そこで我々が考えたのは、消費者の立場で、環境にいい物、悪い物を選別して、いい物にはそれを示すマークをつけて使う人を広げていくということです。このマークを「エコナビ・マーク」と呼んでいます。

 パートナーとして、平和堂さんにご協力いただいて、実際に昨年の暮れからスタートしました。

『商品選定チェック項目』 ―エコナビ的ものさしを基準に

 エコナビ・マークをつけた商品を「エコナビ・グッズ」と呼んでいるんですが、マークをつける際の原則を「選定基準」として定めています。これはいまISO14000という国際規格もあるように、全世界的に言われている方向を向いているので、エコナビとしての特徴はあまりありません。

 ただ、この原則の他に「商品選定チェック項目」を設けています。滋賀県らしい、消費者らしい目をもって商品をチェックしようということで、これも10項目あるんですが、まず1番目は「県内産、国産の素材が使われているものを優先して選ぶ」。これはできるだけ県内あるいは国内の資源を活用しようということです。それと例えば亀の子たわしもエコナビ・グッズに選んでいますが、「古来からつくられ、使われている商品は優先して選ぶ」ことにしています。

 また、項目の7では「ケナフを使用した商品は選ばない」としています。ケナフという植物は木材に替わる繊維がとれるので、数年前から環境に大変いいと評価されています。けれど、これはもともと日本にあった植物ではなく、海外から持ち込んで栽培している、いわゆる外来種です。

 ここでちょっと考えたいのは、琵琶湖にブラックバスやブルーギルという魚がいます。あの魚も外来種で、誰かが琵琶湖に持ち込んだんでしょうが、あの魚が繁殖したために、琵琶湖の生態系がガラッと変わってしまいました。コアユなどの小さな魚、もとからいた在来種が食べられてしまったわけです。

 同じように植物の世界でも、こういった外来種が入ってくると、従来の日本の植生が大きな影響を受けるだろうという予見もあります。ですから、木材を伐採しなくてすむからケナフを良し、とするのは果たしてどうなのか、問題提起を兼ねてこういった項目を設けました。

 ほかに「PET再生素材の商品は選ばない」という項目もあります。ペットボトルはガラスや紙に替わって現在、圧倒的に容器の主流になっています。リサイクルもできるので、皆さんも中を洗って出してくださいとか、色別に出してくださいとか言われておられると思います。

 しかし、それだけやって果たしてどれぐらいが再生されるかというと、ものすごい数が出回っていますから、多少リサイクルに回しても追いつかないわけです。再生される量より、ゴミとして処理される量が圧倒的に多い。これでは富士山をスコップですくうような感じですから、これも見直すべきだと考えます。

エコナビ『買い物原則』 ―エコナビゲーターをめざす人の心がけ

 皆さんが実際、買い物をされるときに守っていただきたいこととして、3つの原則をつくりました。この3つを心がけてもらって、運動に参加していただけないかと呼びかけていきたいと思っています。

 3つの原則を心がけることで、私はときどき近江商人を引き合いに出して「三方よし」の経済構造をつくろうと言っています。近江商人は商人の倫理として「売り手よし 買い手よし 世間よし」の三方よしを言い続けてきた。これは、どの方向に向かっても、結果として「社会全体がよし」の構造になっている。これを今度は社会の中に、経済の仕組みとして根づかせたいと思っています。その構造をつくるために買い手が主人公になってやっていこうと言っているんです。そして我々は、「作り手よし」というのもつけ加えたいと思っています。環境にやさしい物をちゃんとつくれる人やメーカーを増やしていくということです。加えてそういう人やメーカーをつくるということは、地域に新しい産業が育つことにもつながり、同時にそれを売る人も育っていって、そこで社会がよくなるだろうと。こういう構図をつくっていきたいというのが、エコナビ・トルネードのめざすところです。

『エコナビ・グッズ』 ―おしゃれなエコライフを提案

 運動をやる中で、いま我々は平和堂さんをパートナーに選んでいます。環境にやさしい商品を広めるためには、買いやすい状況をつくらなければならない。そのためには、滋賀県に多数の店舗を展開しておられる平和堂さんといっしょにやるのが最善と考えたわけです。

 環境にやさしい商品をリストアップ[左写真]してきましたが、「まだまだ魅力的な物が少ない」というのが本当のところです。皆さんもこういう勉強会では、なるほどおもしろいと思われるかもしれませんが、いざ売り場で自分が買い物をする時、環境商品は他のそうでない商品と比較して、若干価格が高い物もありますから、例えば「おかえりティッシュ」がいいと頭でわかっていても、特売のティッシュがあればそちらを買ってしまうことになりがちじゃないかと思います。この点がネックで、今までずっと来ているんですね。それをどうするかが問題で、そこで我々は、「おしゃれなエコライフ」という提案をやろうと考えているんです。

 義務的に環境にやさしい商品を使いましょうとか、エコロジカルな生活をしましょうとか、いくら言っても長続きはしません。それをやることが「自分にとって気持ちいい」、あるいはふだん「こういう資源の使い方でいいのか」と感じている不安を減らすとか、いろいろありますが、生活自体がよくなっていく感じを与えられる運動にしていかなければと思っています。

 そうすると、単品で勝負をするよりも、例えば台所や掃除、洗濯など、ライフシーンごとにトータルで提案する方が、イメージがわきやすい。例えば台所を頭の中でイメージすると、台所には水道もあれば、流し台もある。流し台からつながっている下水道や合併浄化槽といった設備があれば、包丁やゴミ箱といった雑貨小物もある。

 じゃあ、その台所がどういう形になっていると、皆さんが気持ちよく安全で使い勝手がよく、しかも環境にもやさしい台所になるだろうか? いわば「おしゃれな台所21世紀版」ですが、これを考えるためには、

(1)大型設備などのハードの部分
(2)日用雑貨品、消耗用品などの部分
(3)昔から受け継がれてきたものも含めた台所の知恵、つまりソフトの部分

 この3点セットが必要になります。

 滋賀県立大学の学生にも呼びかけて、彼らなりにこういう台所だったらいいな、というイメージや、こういう日用雑貨があれば自分たちも使ってみたいという意見を提案してもらうという取り組みも始めました。

『エコナビ楽(がく)』 ―エコナビ達人を講師に招いて

 頭ばかりで考えていたのでは、なかなかおもしろいアイデアは浮かんできませんから、ネットワークを通じて、いろんな人の知恵を借りなければダメだろうと考えています。滋賀県には、先の石けん運動をはじめ、消費者運動の長い歴史がありますから、その間に滋賀県を応援してくれる人たちの輪というのも広がっています。そこでその中から我々が「エコナビ達人」と呼んでいる人たち、いま全国で120人ぐらいおられるんですが、この方たちにお願いしてエコナビ・トルネードの応援部隊になっていただき、いろんな形でアドバイスをしてもらっています。

 平和堂さんの店舗を会場に、エコナビ達人を招いて勉強会もやっていくことにしました。年に4回ほどを予定していますが、1回目はすでに平和堂のアル・プラザ八日市で開催しました。「おしゃれなムーヴメント」という内容で、同志社大学の郡嶌孝先生を招いておこないました。次回は売り場そのもの、これからのおしゃれなグリーンストアのあり方をさっきの三方よし、四方よしの観点から、話をしてもらおうと思っています。皆さんもぜひ参加してみてください。 

その他の取り組みとしては、商品デザインの専門家にエコグッズの商品提案をしてもらい、これまでにない使ってみたくなるような商品開発も手がけていくつもりです。

『エコナビ・トルネード』 ―楽しくおしゃれな社会づくり

 運動を進める中で、平和堂さんにも我々はいくつもの注文をつけています。先ほどの「売り手よし、買い手よし」の観点から言えば、流通業というのは、この両者を結ぶキーポジション、キーパーソンなわけです。そういった意味で、店舗は準公共財、公共的な空間に近いと言えます。言いかえると、店舗は我々が「買う」という行為を通じての生涯学習の場だと思います。売り場で新しい価値を発見したり、勉強したり、他のお客さんとコミュニケーションを図ったり。そういう場所でエコナビ・グッズのような商品が提案され、それを見て消費者が勉強をする。そして、消費者の反応を店舗がきちんとキャッチして、それを物をつくる人に伝えて、循環型社会を形成していく。そういった役割が今後、流通業に求められると思います。

 第1回の「エコナビ楽」で、講師の郡嶌先生は、もう一つ近江商人が大切にした言葉として「始末」を言われました。始末は倹約、片づけるという意味にもつながりますが、漢字で書くと「始まりと終わり(末)」。これは、「始めるときに終わりのことを考えて始めなさい」ということです。後で始末をすることになると、それは「後始末」だということを言われました。確かに、始末を始めに考えてとりかかるのと、後で始末をするのとではコストが全然違います。ゴミになる部分をなるべく減らせば、ゴミ処理にかかるお金も減るわけです。何とかなるやろとつくった後で、後始末に追われているのがいまの状況です。

 やはり私たちは、近江商人が言った始末の心や三方よしの倫理を、もう一度社会に取り戻していくことを、この運動の中でやっていきたいと思っています。

 楽しい、おしゃれな社会づくりというイメージで、循環型社会をつくっていきたいというのが、エコナビ・トルネードの方針です。

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