留学生インタビュー

仕事で日本に出張して好きになったので、また奨学金をもらって来ました。─── ジャエさん
専攻は英米文学ですが、宮崎駿監督の映画はとっても好きでした。──── アンさん

──博物館についてお聞きする前に、まずお二人のことをお尋ねします。最初の打ち合わせでお会いした時から気になっていたのですが、ジッスパーさんは、なぜ「ジャエ」というのですか?

ジャエ タイではみんな、お互いのことをあだ名、ニックネームで呼んでいます。大人になってから仕事の場面などでも。

──それがジャエ。どういう意味があるのですか?

ジャエ 「いないいないばあ」という意味です。

──えーっ(笑)。

ジャエ お父さんが赤ん坊の私をあやすために初めて言った言葉が、「ジャエ」でした。両親がそれをあだ名にしたんです。

──なるほど、本名とは別に必ずそういうあだ名があるんですね。

ジャエ タイでは、お父さんやお母さんが好きなものがあだ名になったりします。スポーツ好きのお父さんの子が「ゴルフ」とか(笑)。なぜかわかりませんが、英語で「アーム(腕)」という子もいました。仕事でも、そのあだ名を使うので、知り合って何年も経っていても、みんな本名はあんまり知らないんです。

──アンさんの場合も、ミランダ(Miranda)という英語名があるそうですが、これは?

アン 学校で英語を習うときに、先生から英語の名前を自分でつけるように言われます。それからは、授業中はみんな英語の名前で呼び合うんです。なんか、雰囲気が出るから(笑)。私のミランダという名は、大学に入ってとった英語の授業の先生から、「皆さんの英語名はなんですか?」と聞かれた時につけました。

──ミランダにしたのは、なぜですか?

アン ある映画に出てくる、好きな主人公の名前がミランダだったからです(笑)。

──おもしろいですね。では、もう少しそれぞれが生まれ育ったお国のことを聞かせてください。ジャエさんは、タイのどこですか?

ジャエ バンコクです。バンコクはチャオプラヤー川という大きな川をはさんで、西が住宅地、東は会社などがあるビジネス街になっていて、私は西に住んでいました。

──アンさんは滋賀県が友好提携を結んでいる湖南省の大学からの交換留学生だそうですが、生まれたのは?

アン 湖南省で生まれ、大学に入るまでもずっとそこで育ちました。

──湖南省だと、平和堂には行ったことがあるんですか?

アン あります(笑)。ずっと、子供の時からありましたから。[湖南省長沙市に湖南平和堂が開店したのは、1998年]

──すると、滋賀県のことは知っていたのですか?

アン いいえ。大学で院に進んでから、交換留学制度の説明があり、「滋賀県に行けますよ」と言われてから、初めて知りました。それまでは、「滋賀県」って全然聞いたことがありませんでした。

──湖南省にある大きな湖が……。

アン トンティンフー。

──洞庭湖ですね。住んでいたところは、その湖に近かったですか?

アン いいえ、私が住んでいたのは、湖南省でも南の方で、大学が洞庭湖の近くの町にありました。そして、大学院は平和堂のある長沙にありました。理系の大学ですが、英語と新聞と中国語も専攻できます。私の院に進んでからの専攻は英米文学です。

──では、日本へ留学することにしたのはなぜですか? まずジャエさん。

ジャエ 立命館大学の奨学金をもらって来ました。

──ジャエさん、お年は?

ジャエ 28歳です。大学を卒業して、一度は就職もしていました。

──社会人になったけれど、もう1回勉強をしようと思ったのは、なぜですか?

ジャエ 仕事をしているとき、日本に3カ月半ぐらい出張しました。そこで日本のことが好きになったので、また奨学金をもらって来ました。

アン えーっ、すごい。

ジャエ はい。バンコクにあるタイへ進出した日系企業のサポートなどをしている会社で働いていました。その間に、私は日本のトヨタ本社に出張することになり、愛知県豊田市に来ました。そこには、タイ以外にも中国などいろいろな国から社員が出張してきていました。

──日本語を勉強したのは?

ジャエ 高校でちょっとだけ勉強して、大学でもちょっとだけ勉強していました。でも、習っていた先生自身がほとんど日本語は話せなかったので(笑)。豊田市に来ていた間は、英語でコミュニケーションをとっていました。

──その豊田市の生活で日本が好きになったのですか? あるいは、その前から日本が好きだったのですか?

ジャエ その前から日本の漫画が好きでした(笑)。一番好きだったのは、「花より男子」などの少女漫画。でも、「ドラゴンボール」や「ドラえもん」も好きでした。それから「ちびまる子ちゃん」や「あたしンち」も。

──今の立命館大学での勉強が終わったら、前の会社でまた働くのですか。

ジャエ まだ、どうするかは決めていません。今の専攻だと、研究テーマしだいでいろんな仕事ができると思うのですが、そのテーマをまだ私は決めていないので。

──では続いて、アンさん。

アン 私の専門は英語なので、行くならイギリスやアメリカなのでしょうが(笑)。でも、第二外国語で日本語をとっていて、日本の映画も好きでした。宮崎駿監督の作品はとっても好きです。だから、絶対に日本に行ってみたいと思いました。

──ジブリのアニメでは何が好きですか?

アン 「となりのトトロ」、それから「千と千尋の神隠し」。中国でも、日本のアニメや漫画はとっても影響がありますよ。

ジャエ タイでも小さいころからずっと見てるから。

アン 日本語を勉強する海外の学生は、ほとんどその影響を受けています。

──マレーシアから来ているケニーさんもアニメやゲームが好きでしたね。スマートフォンの画面で何かの画像を見せてくれたことがあります。ダミさんは忍者好きだったし(笑)。

日本料理で好きなのは、トンカツと卵焼き。──── ジャエさん
彦根は田舎ですが、生活が便利です。これは中国と全然違いますね。──── アンさん

──では、続いて滋賀県に来てからのことをお聞きします。ジャエさんが住んでいるのは大学の寮ですか?

ジャエ はい。大学の近くにある留学生の寮に住んでいます。少しですが、その寮には日本人の学生もいます。大学の授業は全部英語なので、日本人といっしょに勉強しています。

──食事は自炊ですか?

ジャエ はい。一番近いスーパーまでは歩いて15分ぐらいで、けっこう遠いですが。

──野菜などでも、タイの野菜と似たものを買ったり?

ジャエ あぁ、ちょっと違いますね。でも、野菜はあまり好きじゃないから(笑)、あまり気にしていません。

──(笑)それは意外。タイの女性はバランスのとれた健康的な食事をしているイメージを勝手に持っていたので。肉が好きなんですか? 何肉?

ジャエ はい。豚肉(笑)。日本料理で好きなのは、トンカツと卵焼き。それから、からあげ。餃子も好きだけど、あれは中華料理ですね。

──アンさんが住んでいるのも大学の寮ですか?

アン 寮ですが、大学から遠くて、自転車で25分ぐらいかかります。彦根城の南にあるベルロードという商店街の平和堂の近く。日本人学生用の寮で定員が少ないので、交換留学生だけ入居できます。普通の留学生はアパートを借りて住んでいます。

──やはり自炊して?

アン 自炊で、中華料理を作っています(笑)。

──日本の料理では何が好きですか?

アン ラーメン大好き(笑)。

ジャエ やっぱり中華料理?

アン でも、日本のラーメンは、中国の麵料理とは違います。あれは日本独自の料理です。

──そうですか、トンカツとラーメンですか(笑)。

ジャエ 卵焼きはめちゃおいしい。あと肉じゃがもおいしい。

──日本料理というと、お刺身などですが、生の魚は食べられますか?

アン あれはなかなか、なれない。

ジャエ 刺身だったら、赤い魚(マグロ)は大丈夫。白いのと皮がついているのは無理かな。

──じゃあ、寿司は食べたいと思わない?

ジャエ 卵焼きなら。

アン でも、回転寿司なら、生のお魚以外にもいろんな種類があるから大丈夫(笑)。

──滋賀県に住んで印象に残ったこととして、一昨年の冬、ジャエさんは雪が降ってすごく喜んだと話していましたね。

ジャエ 今年も少しだけど降ったから、夜、パジャマとサンダルで外に出て遊びました(笑)。撮った写真があります。友達もいっしょに、ほんとに少ない雪だったけど、みんなで雪をかき集めて。(スマートフォンで写真を見せる)

ジャエさん作の雪だるま

ジャエさんが友人たちと雪を集めてつくった雪だるま(ジャエさん提供)

アン これはなんですか? ネコ?

ジャエ 鬼かな?

アン 私も大きな雪だるまを作りました。南彦根はたくさん降ったので。湖南省でも雪が降ることはありますが、それほどではありません。滋賀県はすごいと思いました。

アンさん作の雪だるま

アンさん作の雪だるま。ご覧のとおり「トトロ」(アンさん提供)

──季節の順番が逆になりましたが、博物館を取材に回っていた頃は秋だったので、みんな紅葉をすごく喜んでいましたね。

ジャエ きれいです。日本は黄色だけじゃなくて、赤、オレンジ、いろいろな色があります。タイだと緑からちょっと黄色になって、あとは黒く、枯れちゃう。

金剛輪寺の紅葉

昨年11月16日、ジャエさん、ケニーさん、ダミさんが訪れた愛荘町・金剛輪寺の紅葉(ジャエさん提供)

──他に滋賀県の印象は?

ジャエ ネイチャー、自然の美しさも味わえるし、シティー、街も近い。だから、いいところだと思います。琵琶湖もある。琵琶湖は何回行っても海みたい。

アン 私は学校が琵琶湖の隣だから、毎日見ています。彦根は田舎ですが、生活が便利です。これは中国と全然違いますね。

──中国は都会と田舎が分かれてて、都会は人だらけという感じですか?

アン そう、そう、そう。田舎に行ったら生活が不便になっちゃうし。

──日本だと、田舎に行ってもコンビニや小さなスーパーがあったりして不便しない。

アン そう、そう。

ジャエ でも、私の寮は裏が山だから何にもありません。サルもいます。

アン サル? サルがいますか?

──彦根でも山の方へ行くと、サルがいます。

アン えーっ、見たい。

ジャエ 山だから、自転車で買い物に行くときはちょっと大変です。

腕が何本もある像も日本では、仏像なんですか?──── ジャエさん
えっ、神社は神様なの? アニメでは、妖怪が神社によくいますよ。──── アンさん

──次は、皆さんに回ってもらった博物館についての感想を聞きたいのですが、ジャエさんはタイだから仏教徒ですか?

ジャエ はい。

──日本のお寺でも拝んでいいのですか?

ジャエ はい。いいと思います。

──行ったことはありますか?

ジャエ はい。神社とか。

アン 神社は……。

──仏教ではありません。

ジャエ 仏教じゃないの?

アン 神社は妖怪。妖怪とか昔死んだ人とか。

──妖怪ではありません(笑)。神、神様。

アン えっ、神社は神様なの?

──妖怪みたいな神様もいますが(笑)。

アン アニメでは、妖怪が神社によくいますよ。

──みたいなのがいますね(笑)。「昔死んだ人」というのは間違いではありません。菅原道真や歴代天皇も祀られていますから。

ジャエ 「ようかい」って何?

アン モンスター。

──とにかく、ジャエさんは神社をお寺の一種だと思ってた?

ジャエ 違うの?

──昔は神仏習合といって、二つが混ざっていた時代も長くあったので、難しいですが……。ケニーさんのマレーシアも宗教は仏教なのかな?

ジャエ いっしょ。竹生島に行った時、仏教だと言っていました。

──ダミさんのスリランカはどうですか? たしか仏教徒が多い国ですよね。

ジャエ ダミさんは豚肉を食べるし、イスラムではないと思う。

──ちなみに、天究館のあとで紅葉を見に行ったところは金剛輪寺で、神社ではなくてお寺です。アンさんの場合はどうですか、中国では宗教は?

アン 私は無宗教です。家族は、祖母だけが仏教徒で、他の人はみんな信仰がないです(笑)。祖母だけは毎年、仏教の有名な「山」に行きます。それは本当にすごい数の人が、観光バスやケーブルカーを乗り継いで、高い山の上の大きなお寺にお参りします。

──アンさんは延暦寺にも行きましたが、もっと大きい?

アン もっと大きいです。仏像も大きくて、ピラピラした感じ。おじいさんやおばあさんだけではなく、30代〜40代のおじさん、おばさんもおおぜい子供連れで行きます。

──ジャエさんは、日本の仏像を見て、どう思いましたか?

ジャエ 腕が何本もある像も、日本では仏像なんですか? あれは、本当の仏教ではないのでは? タイでなら、それらはヒンドゥー教の神だと言います。たとえば、(千手観音像の写真をさして)これは「カーリー」というヒンドゥー教の神に似ています。これ(聖観音坐像)だったら、「ブッダ」と呼びます。でもこれもあっちも、日本では同じ「カンノン」と呼んでいるのが不思議です。

──なるほど、本来はタイの人の感覚が正しいのかと思いますが、知識がないので私は答えることができません。

タイにある道具とも似ているものがありました。まったく同じではないけど、似てる。── ジャエさん
中国と違って、日本では何でも博物館に入っているような気がします(笑)。─── アンさん

──訪問した博物館の中では、どこがおもしろかったですか?

ジャエ アザイミュージアム(浅井歴史民俗資料館)はおもしろかったです。

──私は同行できなかったコースなので、写真を見ただけですが、昔の道具を使ったり、着物を着たり、みんな楽しそうでしたね。

アン あれは楽しい。

ジャエ タイにある道具とも似ているものがありました。まったく同じではないけど、似てる。

──やっぱり米を食べてきた国ということで、農村の道具や家の形は似ているところがあるのでしょう。自分の国の田舎の暮らしを見にいったように感じたのでは?

ジャエ はい。おもしろかったです。

アン ちょっと違うけど(笑)。湖南省では、あそこにあったブーツは見たことない。

──あれは雪の中を歩くためのワラぐつ。

ジャエ あんまり時間がなかったから残念でした。

──日本の着物も着ましたね。

アン 楽しかった。

ジャエ 男の子のケニーも楽しんでた(笑)。

──ケニーも好きそうですね。ああいうコスプレ。ポーズもピシッときめてるし(笑)。

ジャエ 見るだけじゃなくて、ここはたくさん経験できて……。

アン 体験。

ジャエ タイケン? 体験できてよかった。

──彦根城博物館はどうでしたか?

ジャエ 彦根城博物館もスタッフの人がついて説明してくれたので、とてもおもしろかった。行った場所で、タイ人が知っているのは琵琶湖と彦根市です。「ひこにゃん」はタイでもけっこう有名なので。

アン お城は、中国の古い建物と似ています。けれど、ちょっと違う。

──多賀町の天究館で太陽を見たのは?

ジャエ スタッフがいろいろ丁寧に説明してくれたのがよかった。日本語だけどだいたいわかりました。外国人旅行者には英語の方がいいけど(笑)。たまに英語の説明もあるけど、しゃべってくれた方がいい。

アン 書いてある言葉は読みませんね。

ジャエ 読まない。

──やっぱり、英語の音声で説明があるのがベストだと。アンさんが一人で行った大津はどうでしたか?

アン 大津も楽しかった。大津絵美術館の建物はとても日本っぽい。それと比叡山から見下ろした琵琶湖はとてもきれいでした。洞庭湖はまわりにあまり山がないので、上から見下ろしたことがありません。

──自分の国の博物館と違うところは?

アン 中国ではとっても珍しいものだったら博物館に入ります。日本では何でも入っているような気がします(笑)。

──(笑)それはそうかもしれない。ふつうにいる生き物や、ふつうに使われていた暮らしの道具などが展示されていますね。

アン でも、おもしろい(笑)。たぶん中国ではこういう博物館は作らないように思います。

──タイでは、こういう昔の暮らしを展示しているような場所はありますか?

ジャエ わかりません。私が知らないだけであるのかもしれないし。タイの場合、田舎にある博物館はもっと観光っぽいです。

アン それから日本の場合は、博物館の数がとっても多いと思います。

──いま、滋賀県には博物館協議会の加盟館で70あって、非加盟館を入れると90館以上あることになります。

アン すごいですね。

ジャエ 同じ滋賀県なのに、こっち(長浜市の浅井歴史民俗資料館)とこっち(大津市の伊香立「香の里」史料館)で別の民俗資料館があるのは、なぜですか?

──琵琶湖をはさんでこっちとこっちでは、使ってる道具もちょっとずつ違います。方言(話し言葉)が違うのと同じように、地域差があるから。

アン たぶん、中国で滋賀県くらいの大きさの地域だったら博物館は1館か2館しかないと思う(笑)。

──中国は広いからね(笑)。

アン だから、文化財をとても重視している、大切にしていると思います。日本では、どこでもこうですか?

──滋賀県は博物館や美術館の数は多い方ですね。京都・奈良と隣り合っていて、自然も歴史・文化も豊かなところですから。海外の人にも、京都、奈良、滋賀の順で知ってもらえるようになるとありがたいです。今日はどうもありがとうございました。

ジャエ・アン ありがとうございました。
(2014・1・31)


編集後記

留学生レポーターの一人、アンさんは留学期間が終了し、2月19日に帰国されました。湖南省からメールで届いた記事内容のお返事には、「ときどき変な日本語が出てくるけど、仕方ないなあ」。アンさんもジャエさんも、話しやすいのは、母国語>英語>日本語の順。日本語でのインタビューとなったのは、私の英会話能力のなさゆえです。お許しを。(キ)


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