2014年 8月 13日

夏の夜の 夢で逢えたら 硫黄島

 7月の金曜の夜は、小学3年の娘が風呂上りで湿ったままの髪をドライヤーで乾かすよう命じる妻の声を無視したまま、テレビの10チャンネル(ここは関西なので)で放送しているジブリ映画の画面を見つめている。2時間経って放映が終わった頃、娘の髪の毛は自然乾燥されている。
 それにつきあっていると、本編の合間に流れるジブリ最新作『思い出のマーニー』(米林宏昌監督)の予告映像を目にすることになる。
 少女が窓辺の少女に向かって叫ぶ。「あなたが好きよ!」
 前回からの流れで、私は考える。これは、ジブリ版『幻の朱い実』?
 岩波少年文庫の中でも名作とされているという原作を読む。……別種の「愛」でした。
 読み終わった頃に映画館での上映がスタートした。予告映像からわが身の欲するところのものではないとわかっているらしい娘は、妻同伴で『ポケモン・ザ・ムービーXY 破壊の繭とディアンシー』を見に行き、私は一人で『思い出のマーニー』を観る。
 前回(『風立ちぬ』に関して)、主人公がしげしげと見つめるヒロインの表情と動きを描いたらよかったのにと書いたら、まさにそういうシーンがあったのだが、いかんせんヒロインの容姿と服装に「古臭い」という感想しか抱けない。金髪はストレートでボリューム少なめでしょう。
 そして、現実パートと夢パートを明確に分けすぎ。原作でもその旨は律儀に書かれているので、改変ではないが、「彼女は現実なの……?」ぐらいでもっと引っ張ってほしいところ。
 ただし、随所に回想シーンを挿入したつくりよりも、主人公が過去を現在進行形で体験する本作のかたちの方が、魅力的であるのは確かだ。昨年1月に名古屋シネマテークで観た実写映画、『Playback』(三宅唱監督、2012年)を思い出した。
 俳優である主人公(村上淳)は自らの現在に行き詰まりを感じている。
  そもそも……俺が俳優になったきっかけって……。
 「普通」の映画であれば、過去の回想シーンになるところだ。それを『Playback』では、車中で居眠りしている間に過去にタイムスリップさせてしまう。主人公は、現在進行形で過去を再び体験する。30代半ばの容姿のまま、高校生を生きる。あわてることはない。主人公だけでなく、関わる男友達、その妹らはみな「現在」に登場した30代半ばの男女が学生服とセーラー服に身を包んだ姿だ。コメディーではない。主演の村上をはじめ主要キャストの大半はモデル出身の俳優が占めるスタイリッシュな作品だ。
 撮影地は、路面に東日本大地震の爪あとも残る茨城県水戸市。低予算映画だから、過去へさかのぼったからといって、1990年代の町並みのセットがあるわけでも、CGによる背景処理がほどこされるわけでもない。そのために選択されたものではないようだが、モノクロ作品であることは、時代的な違和感を緩和するのに一役買っている。
 唯一映画のセットが登場する場面がある。主人公が映画好きの同級生につきあって、時代劇用のセットが組まれた撮影現場を訪れ、以後現在まで世話になる映画プロデューサーと出会う。ストーリー上も、現在の疑念に解答を与えるはずの重要なシーンにあたる。
 その白壁に瓦屋根の葺かれたセットも、『Playback』のためにしつらえられたものではない。映画『桜田門外ノ変』(佐藤純彌監督、2010年)で、水戸浪士による大老・井伊直弼襲撃シーンを撮影するために江戸城桜田門前を再現して作られたオープンセットである。映画完成後も取り壊さずに、記念展示館とともに2013年3月まで有料公開されていた。
 なぜ、セットの話になっているかというと、弊社刊行の大石学・時代考証学会編『時代劇文化の発信地・京都』(2014年)に、『桜田門外ノ変』で美術を担当した東映京都撮影所スタッフが、同セット製作の過程を例に時代劇映画における美術部門の役割を解説した講演が収録されているから。同書の購入に結びつく話とは思えないが書いておこう。
 もう一つ、弊社刊行の書籍からつなげたい映像作品がある。こちらも本の売上に貢献しそうにはない話に飛ぶが、書いてしまう。
 太平洋戦争末期の滋賀県のありさまを掘り起こした水谷孝信著『本土決戦と滋賀 ―空襲・予科練・比叡山「桜花」基地―』(8月20日ごろ発売)の後半では、比叡山(大津市)の坂本ケーブル山頂駅のそば(標高800m余り)に建造された特攻機「桜花(おうか)」のカタパルトについて詳細に説明されている。グライダーか緊急時の脱出用機にしか見えない外観の「桜花」は、前部に爆弾を搭載し、搭乗員とともに敵艦に突っ込むという兵器だ。1945年3月には沖縄を攻撃中の米軍に対して、腹部に吊り下げた戦闘機から放たれるかたちで使用され、米軍から「BAKA BOMB(バカ爆弾)」と呼ばれたという。
 結局、比叡山のカタパルトには実機と練習機が到着しないまま敗戦を迎え、琵琶湖上空を飛行することはなかった。
 さて、同書では、このカタパルトの構造を、「レールは巡洋艦からの流用だが、形式としては潜水艦用のカタパルトが基になったと考えられる」(具体的には当時の最新鋭潜水艦・伊400などが装備した特S射出機)とし、潜水艦「伊400」の甲板上のカタパルトの写真を掲載している。潜水艦に戦闘機を射出するカタパルト? と思ったのは私も同じ。ネット検索してもらえばわかるとおり、艦橋下に設けられた格納筒に戦闘機3機を収納できる、いわゆる「潜水空母」なのだった。
 海なしの滋賀県に関する本をつくっていて、この時期に潜水艦「伊(イ)400」に関する記述に出会ったとなると、書かずにはいられない。
 そう、私はテレビアニメ『蒼き鋼のアルペジオ ―アルス・ノヴァ―』(2013年放映)にはまっている。
 突如、外観は第2次世界大戦時の艦艇のかたちをしているが、はるかに進んだ科学技術を備えた正体不明の艦隊群、通称「霧の艦隊」が出現し、人類は海洋から駆逐された近未来が舞台。主人公と唯一人類のもとに拿捕(だほ)された潜水艦「イ401」、そのメンタルモデル(ヒト型の意識体)による反撃はなるか!?
 つまり、巨大メカ(戦艦&潜水艦)と美少女(メンタルモデル)がグループ単位で襲来したわけだ。もう、私自身、数行前の特攻機「桜花」のカタパルトの件を忘れそうになるが、本作には主役のイ401と敵対関係にある姉妹艦としてイ400とイ402が登場する。イ400のメンタルモデルはチャイナ服で頭にお団子形の髪飾りが二つあるのが特徴である。
 本作が「全編ほぼ3DCGで制作されていながら、手書きアニメに近い仕上がりになっている」という点に興味を持って、本放送より半年遅れでDVDをレンタルした私は、ものすごく久しぶりにテレビアニメを全話見通した。
 まだシーズン前半なのに、敵方メンタルモデルの仕草・表情と戦闘シーンが劇場版アニメ並みに作り込まれた4話に感心した。6話と10話と12話(最終回)で目が潤んだ。キリクマが好き。きわめて標準的な反応だ。すでに本作に大量に与えられている視聴者の評、スタッフからのコメントにつけたすものはない。
 『思い出のマーニー』と『Playback』について書いたことにつなげるなら、回想シーンが生じそうな要素(過去の因縁話)をバッサリ削除して、現在進行形のメンタルモデルたちの成長物語に特化したことが成功の理由だろうということになるが、それもすでに監督らがインタビューでさんざ語っている。
 原作漫画(サブタイトルなしのタイトル)の重要キャラである主人公の父親や、ダブル、トリプルを上回る数になりそうなヒロインたちは登場しない。
 監督である岸誠二のプロフィールを調べてみると、「滋賀県出まれ」で、「多くの人気作を送り出してきた」方とのこと。あわてて過去作『瀬戸の花嫁』と『ペルソナ4』のDVD1巻を観たものの続きには興味がわかなかった私ですが、来年公開予定の「蒼き鋼」劇場版には大変期待しております。主人公は天涯孤独のままでいっちゃってください。何卒お願い申し上げます。

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