2012年 8月 26日

加えたくなるエピソード――細田守監督『おおかみこどもの雨と雪』

 予想できなかったわけではない。
 昨年11月に出た『シネアスト相米慎二』(キネマ旬報社)に掲載されたインタビュー記事で脚本家の奥寺佐渡子は、「ふと思い出して細田守監督らと一緒に『雪の断章』[相米慎二監督、1985年]を見返しました。今でもちゃんと理解できているわけではありません。でも同世代的な記憶も手伝って『全然意味がわからない!』などと言いながら、大いに盛り上がりました」と述べているし。
 この夏公開された細田守監督、奥寺佐渡子・細田守脚本の映画『おおかみこどもの雨と雪』のことである。
 奥寺は1966年、細田は1967年、私は1968年(3月生まれだから、細田監督と学年同じ)生れの同世代。以前の当ブログ(ギリギリセーフの長浜東映)に書いた、一般映画を上映していた長浜協映で私も『雪の断章』を観ている。
 なので、以下のような具合に相米監督作品を思い浮かべる結果となった。
 年をまたがる長さの時間経過を納めたワンシーンは、『雪の断章』の冒頭や『お引越し』(1993年、奥寺の脚本家デビュー作でもある)のラスト、台風襲来で人影のなくなった学校に居残った思春期の男女は『台風クラブ』(1985年)、クライマックスで主人公が森の中をさまよった末、広々とした場所で家族に別れを告げる展開は『お引越し』。
 ちなみに、『お引越し』で主人公の小学6年生レンコ(田畑智子)がさまよった森は、大津市の日吉大社裏、腰まで水に浸かりながらかつての家族(離婚前の両親)の姿を幻視するのは琵琶湖。ロケ地の多くが滋賀県だったことについては、吉田馨著『別冊淡海文庫11 銀幕の湖国』(弊社刊)を参照[ただし品切]。
 以上、同世代の観客として(滋賀県ネタも含むので)書いておくが、じつは細田監督自身もあちこちのインタビューなどで相米映画について語っており、同作の感想レビューなどでも書かれているようなので、目新しい指摘ではない。
 問題は、『おおかみこども・・・』のアニメとしては異例の長回しシーンが、相米映画の特徴とされる長回しのような効果をあげていないことだ。
 ワンシーンそれぞれが長めのシンプルな物語にするために、わざとエピソードや登場人物を刈り込んだんだなぁというのはわかる。わかるが、それが「ものたりなさ」につながってしまっている。
 とりあえず、登場人物とあらすじ――東京の大学に通う主人公の花が大学構内で出会い、恋に落ちた彼は「おおかみおとこ」だった。二人はいっしょに暮らし始め、娘の雪、息子の雨をあいつぎ授かるが、彼は突然死んでしまう。残された花は東京を離れ、彼の持ち物だった1枚の風景写真を手がかりに人里はなれた山奥の廃屋とわずかな畑地を買い取って、二人の「おおかみこども」と暮らし始める。
 大筋の展開や結末に不満があるわけではない。単純にあといくつかのエピソードをつけ加えたくなるのだ。
 教室の窓際で、雪が同級生男子の草平に自分の正体を明かすシーンは私好み(理由などは脇道にそれるので省略)なのだが、雪が「おおかみ」であることのプラスの面を示すエピソードもほしい。ヴァンパイアと少年の出会いを描いた『ぼくのエリ』(トーマス・アルフレッドソン監督、2008年)のラストみたいな惨劇は似つかわしくないにしても、例えば台風の土砂崩れで行方不明になった草平を持ち前の嗅覚で瓦礫の中から救い出すぐらいの経験をしないと、雪は自身の能力と折り合いがつけられないだろう。
 それから、物語中盤で母親の花が始めた野菜を自給するための畑が害獣の被害を受けないことを不思議がる近所の人の台詞があった。ここなども畑の風景カットにかぶる台詞に終わらせず、おおかみこどもがいるから草食獣がよりつかないことを直接的に示すエピソードにすればよかったのに。
  おおかみ姿の雪と雨がニホンジカを捕らえてくる。
  花が世話になっている近所の人たちに料理をふるまう。
  花の畑に被害がないことを不思議がる老人Aの台詞。
  老人Aが料理をほおばりながら、「ところで、この肉は何の肉だい?」
  顔を見合わせて、にんまりする花と雪と雨。
 こんなシーンがあれば、シカ肉映画の一本に加えることができたのに!(前々回の当ブログ「シカ喰う人々」参照)
 と書くと冗談みたいになるが、ほんと畑仕事ばかりだと「ベジタリアンのおおかみ」みたいなんだもの。
 あっ、どうせならニホンジカではなく、カモシカでいってみようか。
  おおかみ姿の雪と雨がカモシカを捕らえてくる。
  さすがに天然記念物だと知っている花は青ざめる。
  けれど、肉は無駄にすることなくさばいて・・・以下同じ(にんまり時の花は冷や汗をたらす)。
 おお、世界で唯一のカモシカ肉映画の誕生!
 いや、これは二次創作向きだな。

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