新撰 淡海木間攫

其の十一 清流のシンボル「ハリヨ」

ハリヨ

 みなさんは「ハリヨ」という名前の魚を聞いたことがありますか。ハリヨは7~8cmほどの大きさで、その名のとおり背中や腹にトゲのある淡水魚です。かつては滋賀県の湧水地帯にごく普通に見られ、「ハリンチョ」「ハリキン」「ハリンサバ」などと呼ばれ親しまれていました。しかし、最近は湧水地の減少などのため生息数が少なくなっています。

 ハリヨは鳥のように、巣を作る魚としても知られています。春から秋の繁殖期になると雄は縄張りを持ち、そのしるしとしてあごから腹部にかけて鮮やかな朱紅色になります。そして水草や落ち葉の切れ端を集めて作った、「かまくら」を押しつぶしたような巣の中に、おなかの大きな雌を次々と導いて産卵させます。巣が卵でいっぱいになると、雄は稚魚が泳ぎ出すまで、巣にきれいな水を送り込んだり、外敵を追い払ったりつきっきりで世話をします。

 この魚はどこにでも住めるわけではありません。生息の条件は水温が夏になっても20℃以上にならず、水流が安定し穏やかであることが必要です。これらの条件を満たす場所は平野部にある湧水地帯に限定され、ハリヨは湧水とは切っても切れない関係にあるといえます。

 現在の滋賀県内の生息地は、米原町醒井を流れる地蔵川など、わかっているだけで10数カ所ですが、中には枯れた湧水をポンプで汲みあげなければいけないところ、水源の水溜まりだけに細々と生息しているところもあり、滋賀県でハリヨが生きていく環境は、たいへん厳しい状況です。最近は地元の自治会などが保護活動を始めるところもあり、清流のシンボルとして関心を持たれるようになってきました。絶滅の危機にあるハリヨと言う小魚を守ることは、さまざまな魚の住みやすい川と清らかな水を守ることにもつながるのです。

琵琶湖博物館交流センター 桑村 邦彦

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