新撰 淡海木間攫

其の八 ムギツク

ムギツク

 成魚の全長は15cm。鼻先から尾ビレの二股部にかけ、体側に黒色の一本線が入り、おしゃれな印象を与える魚です。分布は、福井県、滋賀県、三重県以西の本州と四国の一部、九州北部です。比較的広域に分布する魚ですが、主に河川の中・下流域に生息し、琵琶湖にはまったくといってよいほど棲んでいません。県内でも分布に妙な偏りがあり、大戸川、瀬田川に多く、野洲川、日野川、愛知川と北進しているような分布傾向を持っています。京都側は由良川まで分布しているのですが、上流部でわずかな距離しか隔てていない支流の針畑川を持つ安曇川でも、まだ生息が確認されていません。

ムギツクを印象づける黒色縦帯は、幼魚ほど鮮明で、大型魚では不鮮明になります。特に幼魚では全身が橙色を帯びるため、まるで熱帯魚のようなあでやかさがあります。しかし、底生で臆病な性格のため、静かな環境で飼育しないと隠れがちで、美しさのわりに鑑賞向きでない魚です。この性格は幼魚・成魚で変わりがなく、成魚では、体が大きい分だけ物陰に隠れる速度や力が大きく、驚いた弾みで体をぶつけ鱗を落とすことが度々あります。また、わずかな隙間に大勢が殺到し、頭を隠しても尾部が丸出しになって、まるで針山のようになることもあり、滑稽でもあります。そんなわけで、飼育すると体に生傷の絶えない魚ですが、病気には強く、傷口からの細菌感染症などにもあまりかからない魚です。生息環境が、水質や水量などの自然変動の大きな場所であることが多く、そのため体質的に丈夫にできているのかも知れません。

 雑食性で、石の表面の藻類や付着動物を主食とするのですが、口が上向きについているため、逆立ちをするような格好で摂食している姿をよく見ます。方言名の一つ、ノリコズキはそんな姿を指したもののようです。口が小さめのため、クチボソの方言名も持っていますが、これは関東でのモツゴの方言名と同じ名前です。

C展示室(水族展示)主任学芸員 秋山 廣光

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