新撰 淡海木間攫

其の一 セッケイカワゲラ

セッケイカワゲラ

採集地 これからの季節、滋賀県北部の山々は厚い雪におおわれます。チョウやトンボなど春から秋に飛び回っていた虫たちのほとんどは、とっくに姿を見せなくなっていますが、虫の中にはこういう寒い季節をわざわざ選んで現れ、元気に動き回る変わり者がいます。

 その一つがセッケイカワゲラなど雪上カワゲラ類で、スキー場わきの川べりの雪の上などでアリのような真っ黒い虫が歩き回っているのがそうです。

 セッケイカワゲラの幼虫は谷川にすみ、秋から冬に育って、成虫は冬に雪の上で羽化します。ふつう昆虫の成虫には翅がありますが、セッケイカワゲラの場合は成虫に「羽化」しても翅が生えません。翅があっても寒くてとても飛べないので退化してしまったのだろう、と言われています。

 陽の当たる暖かい日には、たくさんのセッケイカワゲラの成虫が、雪の上をいっせいに同じ方向を向いて歩くのが見られることがあります。この方向を決めるのに虫たちは太陽の方向を目印にしているらしいのです(幸島さん・日高さんの研究)。雪の上を一直線に歩いている虫を太陽からさえぎり、代わりに鏡で逆方向から日光を当てると虫はだまされて逆向きに歩くそうです。

雪上カワゲラ類にはこの他にもたくさんの種があり、滋賀県だけでも数十種いるらしいのですが、ほとんど誰も調べていないのでよくわかりません。これから新種もたくさん見つかるでしょう。よく調べてみれば、琵琶湖へ流れ込む谷川の環境についていろいろなことを教えてくれそうな虫です。

C展示室担当学芸員 内田臣一

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