2007年 10月 22日

プレミア上映『呉清源 極みの棋譜』評

 10月21日(日)午後3時30分から、甲賀市の碧水ホールで第3回甲賀映画祭の上映作品の一つ、『呉清源 極みの棋譜』を観る。
 呉清源(チャン・チェン)の頭の中は、囲碁と真理の探求のことでいっぱいである。すなわち、ほぼつねに「心ここにあらず」。田壮壮監督は、主人公の頭の中を映像化しようとしたりはしない。セリフとしても、最小限の言葉しか彼には与えない。であるから、これから観ようとお考えの方は、スクリーン上の主人公は、7、8割方、「心ここにあらず」の状態にあるということを念頭に置いていただいた方がよい。さもないと、観ている最中に、主人公が何を考えているのか、あれこれ思いめぐらして時間を無駄にする。考えているのは、囲碁と真理の探究についてである。ライバル木谷実との対戦では、鼻血を垂らして倒れ込む木谷と大騒ぎする周囲の者をよそに、一人斜め上前方を見つめ続ける。川辺の石積みを歩けば、バランスを崩して川に落ちずぶぬれになる。道を横切れば、オートバイにはねられる。90歳を越して今もご存命だというのが不思議なぐらいの危なっかしさである。
 日本での先生である瀬越憲作(柄本明)はもっとすさまじい。戦争末期という状況にもかかわらず、「棋士たる者は…」と言って、故郷の広島で本因坊戦をおこなう。原子爆弾投下。爆風が吹き抜けて一面に粉塵が舞う中、微動だにしていない瀬越の人影が浮かび上がり、何事もなかったかのように周囲の者へ対局の継続を告げる。
 俳優チャン・チェン目当ての方のために、一番エロチックなシーンをお教えしておく。縁側で考え込んでいた主人公が、ふいに着物の帯をといたかと思うと廊下をこちらに向かって歩いてくるところ(やがてカメラの視線が右手に持つ帯の方に移るので、これに続く行動が予想できる)。前がはだけて生足が見えるわけでもないのだが、この帯なしの着物姿にはドキドキせずにはいられない。

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