2008年 12月 27日

たぶん社名の由来となった映画――F・W・ムルナウ監督『サンライズ』

 先日、ある映画評論集を読んでいたら、サイレント映画の時代、ドイツ出身の監督ムルナウがアメリカに招かれて作った映画『サンライズ』のことが書かれていた。この映画については、淀川長治さんの鼎談集などでも語られているので、題名は知っていたのだが、見たことはない。アマゾンでDVDを検索してみると、中古なら4000円ちょっと。購入して見た。
 監督であるムルナウの作品の中では、ホラー映画の元祖とされる『吸血鬼ノスフェラトゥ』が一番有名で、『サンライズ』は誰もが知るというほどではないのだが、1927年の第1回アカデミー賞で主演女優賞と撮影賞を受賞。日本では1928年(昭和3)に公開。
 弊社の現社長の父・岩根豊秀が、謄写印刷を学んでサンライズスタヂオを創業したのが、1930年、24歳の頃。今なら、来年開店した喫茶店の名前が「喫茶ポニョ」だったというようなものだと思う。たぶん。
 映画の主役は、田舎の農村に暮らす若い男とその妻。男は、避暑に訪れた都会の女に誘惑される。女にそそのかされた男は、妻を大きな湖にボートで連れ出して溺死させようとするが、殺すことはできず、湖を渡った地の都会で二人は愛を取り戻す。しかし、帰り道、暴風雨にあった二人の乗るボートは転覆してしまい…。
 要所で説明やセリフの字幕が入るだけの無声映画だが、不穏な空気を感じた妻の愛犬が、沖に出るボートに吠え立てたかと思うと、湖に飛び込んでまで追ってきたり、芸が細かいというか、次々何かしら起こるので、90分の長丁場をあきずに見ることができる。
 個人的にはまず、多くのシーンが頭の中で手塚治虫の漫画に変換できたことが発見だった。愛情を取り戻した夫婦が二人の世界にひたりながら街を歩けば、車の通行をさえぎり前方は大渋滞、急停車してクラクションを鳴らす車たち、喜び合い小柄な妻の両脇をかかえてグルグル回る夫と、それを取り囲む人々、湖で行方不明になった妻を、暗闇の中、ランプの灯りをたよりに探す夫の顔のアップ。手塚治虫は、生まれたのが『サンライズ』日本公開の年だから、同時代に体験しているわけはないけれど、きっと戦後にこの周辺の映画をたくさん見て、影響を受けたのでは。
 もう一つ、そうこなくちゃという感じでよかったのが、小道具としての水草の束の使われ方。この水草、字幕では「bulrushes」、日本語字幕では「フトイ草」と訳してある。何のことかわからず、調べてみると、湖の浅いところなどに生えるフトイグサ(漢字で太藺草)というカヤツリグサ科の植物のこと。1~2mの高さに育ち、琵琶湖や余呉湖の湖岸にも生えているそう。DVDについていた解説によると、原作のドイツの小説ではヨシだったそうで、アメリカの撮影地の近くではヨシは手に入らなかったのかな?(フトイ草が生えてる湿地の場面もセット撮影)
 冒頭で、以下の字幕が映し出される。
  This song of the Man and his wife is of no place and every place;you might hear it anywhere at anytime.
  For wherever the sun rises and sets in the city’s turmoil or under the open sky on the farm life is much the same;sometimes hitter,sometimes sweel.
  これは「男」と「妻」の歌
  場所はどこでもない
  いつでもどこでも耳にするはず
  日が昇り沈むところなら
  どこであれ同じ
  都会の喧噪の中であれ
  あるいは大空の下の農場であれ
  人生は似たり寄ったり
  時には苦い事もあれば
  時には甘い事もある
 この映画に由来するなら、地方出版社の社名として、案外ふさわしい言葉なわけである。

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