2017年 8月 15日

ナニワトモアレ、反緊縮――北田暁大・栗原裕一郎・後藤和智『現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史』

 北田暁大・栗原裕一郎・後藤和智『現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史』(イースト新書)を、書店の新書の棚で購入。立ち読みした時点で、一流大学の教授ほど学生の就職難に関心がない(=ほっておいても就職できる)から、アベノミクスに反対するといった発言に、そんな身もふたもない……と笑ってしまった。
 と記憶していたのだが、改めて同書を読むと該当する箇所がない。「いわゆる文化左翼って大学の先生ばっかりでみんな食うに困らない人だから、貧乏人の幸せの心配なんか本気でしないですよ。(栗原)」「アベノミクスの一番の効果というか恩恵を被っているのは大卒の新卒の人たちで、これは非常によくなっている。(北田)」といった発言はあるのだが。もしやと思い、同じ頃に買った髙橋洋一・ぐっちーさん『勇敢な日本経済論』(講談社現代新書)という対談本をあたると、こちらの高橋発言だった。
 「Fランク大学の教員のほうが失業率には敏感なんだ。企業は上から採用していくじゃない。不況のときでも一流大学は影響を受けないんだよ。だから、一流大学の先生って、学生の雇用にまったく関心を示さないんだ。」「金融政策と雇用に関係があるというのは世界の常識なんだけど、一流大学の先生ほどそれを理解しない。金融政策に関して比較的まともな発言してるのって、だいたいマイナー大学の先生なんだ(笑)。身近で深刻な問題なんだもん。」
 前振りからつまずいた格好なんだが、『現代ニッポン論壇事情』の方について書かないと先に進まない。内容は、ここ30年の社会批評を概観しながら、近年とみに経済の問題を無視して政治運動(?)にかまける朝日・岩波文化人(帯にある順で名だけあげれば柄谷行人、上野千鶴子、内田樹、高橋源一郎、宮台真治、小熊英二、古市憲寿……)を批判した鼎談。ひと言でいうと、「(滋賀県草津市にある)立命館大学経済学部の教授・松尾匡さんの本を読んで、反緊縮・リフレ派になろう!」。
 2015年5月24日付けの当ブログ「アルペジオ、アンサンブルー、アベノミクス」で、松尾著『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』(PHP新書)と『不況は人災です!』(筑摩書房)を取り上げたとおり、私も反緊縮・リフレ派なのだが、松尾本も含め北田や後藤(栗原だけ違う)が「反安倍」なのがわからない。北田の発言に「“安倍嫌い”まではわかる。僕も嫌い(笑)」というのがあるが、何がどう嫌いなのかという説明はなし。
 そもそも私には、安倍首相の祖父の岸信介を左翼が嫌うのがわからない。有名な「満州国の産業開発は私の描いた作品だ」という言葉からして、岸信介は社会主義者だろうに。先のリベラル文化人たちは衣食足りて脱(反)経済成長・緊縮を説く自由放任主義者だから仕方ないとして、それを批判する立場で、なぜ? という理由もじつはわからないわけではない。それは小谷野敦などの本を読めばわかる。
 『現代ニッポン論壇事情』を持ち出してきたのは、同書で東浩紀と宮台真治が「自分だけが本質を見ている系」(後藤)と揶揄されていたから、それに便乗するためである。宮台については、前回の当ブログでも小説中の「北台権司」として登場させており、「著作を読んだことも、コメントの類いが記憶に残ったこともない」と書いた。それは半ば嘘でインタビューでの発言に腹を立てたことはある。「はてなダイアリー」にあった「東浩紀の文章を批評する日記」というブログのコメント欄に投稿までした。適当な語で検索してみると、まだ表示されたので驚いた(ブログ自体は2010年1月以降の更新なし)。
 日付は、2004年8月12日、時刻は23時36分。ちょうど13年前だ。ハンドルネームには「ゴロン」とある。名前を使わせてもらった飼い猫は5、6年前に世を去っている。またしても、盆休みにこうして書いている、わが身の変化のなさよ。
 さて、投稿した文章は以下のとおり。
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 東(とその他)の漫画評で古いネタになりますが、誰もツッコミ入れてないので書いておきます。以下、長くてすいません。無視してもらって結構です。
 WebマガジンのTINMIXインタビュースペシャル「車から老いへ」で、東は小説家の阿部和重、漫画家の砂といっしょに「ヤングマガジン」の『頭文字D』(しげの秀一)と『湾岸ミッドナイト』(楠みちはる)について語っています。この時点で車漫画として、この2作品を取り上げたこと自体が誤りです。ヤングマガジンには、もう1作、南勝久の『ナニワトモアレ』という車漫画があり、3作品の中で漫画として最も面白かった(過去形ではなく連載中の現時点でも)のは『ナニワトモアレ』なんですから(言っておきますが、マニアックな視点で言っているではなく、同誌での掲載順、単行本の売上数などからみて、『ナニワトモアレ』は一般読者にも支持されています)。
 で、鼎談で東は「車は、精神分析的には女の隠喩ですからね。」という結論を出します。(笑。ちょうど『ナニワトモアレ』には、こんなセリフを鼻で笑う場面があります。)
 さらに東は読売新聞の書評欄でも、『湾岸ミッドナイト』を取り上げ、「バブル後の日本社会を映している」とか言うわけです。
(中略)
 さらに、車雑誌「afエグゼ」で、東は社会学者の宮台真司と改造車をテーマにした対談をしたそうです(これは未見)。その後、宮台は「文藝別冊 岡崎京子」(河出書房新社)の岡崎京子に関するインタビューの中で、先の対談の件を持ち出して「今『ヤンマガ』に車の連載が二つあるんです、しげの秀一『頭文字D』と、楠みちはる『湾岸ミッドナイト』」と言い出します。で、語っているのは、漫画そのものではなく、現実のドリフト族とローリング族と自分の自慢話なのでした。だから、2つじゃなくて、3つだってば。コンビニででも『ヤンマガ』を手に取ったことがあるんでしょうか? 宮台は。
(ファンかと思われると心外なので、補足すると私は岡崎京子が大嫌いです。先の本に目を通して、持ち上げているのはどうでもいい人ばかりなので安心した次第。)
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 大阪の環状族をモデルにした『ナニワトモアレ』は、登場人物の素行が悪くチーム同士の抗争シーンも多かったため、走り屋漫画というより喧嘩漫画だと評されることもある。しかし、東・宮台の場合、それを理由にはずしたのではないだろう。単に雑誌を手にとっていないのだろうが、そこをつつく気もしない。むしろ、この2人の選からもれた『ナニワトモアレ』はさすがだ。
 現在、南勝久がヤングマガジンに連載している『ザ・ファブル』が、今年5月に第41回講談社漫画賞[一般部門]を受賞した。○○賞の類いは基本的に無視しているが(同賞は発行元の出版社主催だし)、南勝久はあまりに過小評価されすぎてきた。15年余り、毎週月曜日の仕事帰りに立ち寄るコンビニで(改めて単行本でも)楽しませてもらってきたファンの身としては、ただただ「おめでとうございます」と書きたい。審査委員の一人で漫画家の大暮維人による「前作に引き続いて掲載誌を背負っている作者の凄みを感じました」という選評も、激しく同意しながら書き写しておく。
 『ナニワトモアレ』(2000~2007年 全28巻)と第二部にあたる『なにわ友あれ』(2007~2014年 全31巻)はアマゾンでほとんどレビューの書き込みがなく、休業中の殺し屋を主人公にした『ザ・ファブル』から急増しているが、作劇のうまさは3作とも共通している。1980年代後半から1990年代前半のヤングマガジンを代表する傑作『ゴリラーマン』(ハロルド作石)が一番おもしろかった中期の質を、はるかに長く維持している(ちなみに実際の連載時よりも過去を舞台としている『なにわ友あれ』では、主人公テツヤが『ゴリラーマン』を愛読していることがわかるシーンもある)。
 絵はスタッフのポーズを撮影して資料にしており、南は目にしたこともないだろうが『ガロ』系の作家で私が唯一好きな安部慎一の系譜に位置づけたい。
 最後に、テツヤの相棒で1回だけ人差し指からレーザービームを出したこともあるパンダに、2000年代日本漫画の助演男優賞を贈りたい。

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