新撰 淡海木間攫

其の三十七 井戸とツルベ(釣瓶)

井戸とツルベ

 上水道が普及するまで水の確保は各家の務めであった。どの家にも深い井戸が掘られ、湧き水を汲み上げて飲料水をはじめ風呂や洗濯に用いたが、住宅の改築に伴い今ではすっかり姿を消した。

 写真の井戸は、現在ダム建設が計画されている多賀町水谷の若宮八幡宮境内にある。年3回の祭りに、湯立て神楽が奉納される際に用いる釜の湯はこのツルベを使って汲む。八幡宮のあるところは急傾斜地で、隣接する民家の屋根の高さほどに位置する井戸であるにもかかわらずきれいな水が涌くので、今も使われている。

 井戸の底が浅いのでツルベの竹竿の長さは175cmしかない。ツルベは口径が21cm、底径が19cm、高さ17cmのブリキ製のバケツで、約5リットルの水が汲める。ツルベの口縁部に鉄輪を巻き強度を高めるとともに一種の錘の役目をおわせ、ツルベが早く沈むようにしてある。

 ツルベがブリキのバケツに代わる前は、おそらく桶が付いていたものと推測されるが、桶は木製のため水に浮く。口縁部に鉄輪(かなわ)を巻く知恵はそのころからのものかもしれない。井戸は内法(うちのり)76cm四方、厚さ12.5cmのコンクリートの枠で囲われ、地べたから62cm立ち上げてある。コンクリートの枠になる前は、木枠が設えてあったであろう。地面から下の井戸の内壁は石を組んであり、古い井戸の形式が伺われる。

 井戸の近くには大きな石をくり抜いて作った手水鉢が据えてある。幅55cm、長さ83cm、高さ46cmの石の真ん中に、水を溜める池を彫りくぼめてある。これに用いる水も当然のことながら井戸から汲んだものと思われる。横に「御大典紀念」「大正六年七月/上水谷宮世話」とあり、大正天皇の即位を記念して当時の宮世話が寄進したものと思われる。

滋賀県教育委員会文化財保護課 長谷川嘉和

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