2008年 10月 16日

『ドングリと文明』書評の誤り

 制作中の寺本憲之さん著『ドングリの木はなぜイモムシ、ケムシだらけか?』(11月下旬発行予定。以下『イモムシ、ケムシ』)のせいで、私の頭は「ドングリ」という言葉に強く反応します。
 なので、10月12日(日)付毎日新聞の書評欄にあったウィリアム.B.ローガン著『ドングリと文明―偉大な木が創った1万5000年の人類史』(日経BP社)の養老孟司さんによる書評も読みました。
 その一節には、
                                                         
 本書の原題は「オーク」、つまり「カシ」と翻訳するのが普通である。カシの実がドングリである。ただしここはちょっと厄介で、カシ類には常緑と落葉がある。欧米でいうオークは落葉樹のカシ類を指し、日本でいうならナラやクヌギに相当する。
                                                         
とあるわけですが、これはかなり支離滅裂な説明です(まあ、養老さんの書くものや発言がかなり大雑把なことは皆さんご存じでしょうが)。本の方を買って開いてみると、ちゃんと目次前の冒頭に1ページを用いて、「オーク(英:Oak)=ナラ/カシ/ドングリの木について」というタイトルで、翻訳者による日本の読者向けの説明がありました。
                                                         
(前略)
 日本においては、落葉樹のオークを「ナラ(楢)」と呼び、常緑樹のオークを「カシ(樫)」と呼ぶ。ナラの仲間には、コナラ、ミズナラ、クヌギ、アベマキ、、カシワ、ナラガシワなどがある。カシの仲間には、アカガシ、シラカシ、ウバメガシ、アラカシ、ウラジロガシなどがある。
(中略)
 ちなみに、かつてオークは日本において「カシ」と訳されたが、実際に「オーク」という場合、ヨーロッパにおいては(中略)いずれも落葉性高木であるため、「カシ」と訳すのは適当ではない。むしろ、日本の山岳地帯に産するミズナラに見かけは似ており、「ナラ」と訳すのがより正確である。
                                                         
 こちらが植物学的に正しい説明です。ややこしいのですが、前記書評の説明は誤りだらけであることがわかると思います。
                                                         
・「カシ」と翻訳するのが普通である → 本の方では「カシ」と訳すのは適当ではないと断っているので、いまさら誤りをくり返すことはない。(『イモムシ、ケムシ』の原稿でも、「オークを『カシ』と訳している翻訳書をみかけることがあるが誤りである」と書かれています。)
・カシ類には常緑と落葉がある → カシ類は常緑だけです。
・日本でいうならナラやクヌギに相当する → コナラやクヌギなど落葉樹の総称が「ナラ」です。
                                                         
 これによって何がわかるかというと、大概の人は「ドングリの木=ブナ科コナラ属」の分類がいまいちわかっていない(それぞれの名称は、なんか、どこかで聞いたことはあるものばかりなのですが)ということです。
 じつは、『イモムシ、ケムシ』の原稿を読んで私もちんぷんかんぷんとなり、分類図を入れてもらいました。最終章の後半では、滋賀県における縄文時代からの人間とドングリの木の関わりについてもまとめた内容になる予定です。

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